(もしかして、猫?)
それは、紛れもなく黒猫だった。
大きな金色の瞳でミレイナを見下ろしている。
猫はここラングール国では見かけないが、ミレイナの故郷であるアリスタ国にはたくさんいた。
それに前世でペットショップ店員をしていたミレイナは、仕事でもずっと世話をしてきたので、見間違えるはずもない。
(もしかして、来賓の方の連れてきたペットの猫が逃げて来ちゃったのかも)
だとすれば、この子の飼い主はきっととても心配しているはずだ。ミレイナはその塀の上の黒猫に向かい、両手を伸ばす。
[猫ちゃん、逃げたら駄目だよ。おいで]
ちょうどフェンリルのおやつ用に持っていた干し肉を差し出す。すると、黒猫はそれの匂いを嗅ぐように鼻を寄せ、ストンと地面へと降り立った。
そして、その瞬間──。



