ここは竜人が治めるラングール国の王宮の一角。

 既に夜はとっぷりと更け、真っ黒なクロスを敷いたような夜空にはまん丸の月が浮かんでいる。美しく整えられた王宮の庭園を、月明かりが優しく照らしていていた。

 そんな中、竜王であるジェラールが落ち着きなく部屋の中を歩き回っていた。

「ラルフ、まだなのか?」
「まだですね」
「遅くないか?」
「初めてのときはこれが普通です。それに、先ほど同じ質問をされたときからまだ五分しか経っておりません」
「ミレイナに何かあったのかもしれない。見に行ったほうが──」

 部屋のドアに手をかけようとしたとき、「ジェラール陛下」とラルフに呼び止められる。

「数時間前に『邪魔だ』とご自分が追い出されたことをお忘れですか?」