ミレイナは大男とは反対方向に、力の限り走り始める。しかし、先回りしたもうひとりにすぐに行く手を阻まれた。
　ミレイナは方向を変えてまた走る。

［きゃっ！］

　行き止まりになったと思ったら、背後からガシャンという音がした。背後を振り向くと鉄柵が下りているのが見え、檻に入れられたのだとわかった。
　体が揺さぶられるような感覚がして、足下がふわりと浮く。

［助けて！］

　ミレイナは必死に叫ぶ。けれど、その言葉は竜人にとっては意味を成さない音にしかならない。
「なんかピーピー言ってうるせえ生き物だな？　おい、ジャック。こんなのが本当に高く売れるのかよ？」

　大男はミレイナを閉じ込めた檻を自分の目線まで持ち上げる。そして、背後にいたジャックと呼ばれるもうひとりのひょろりとした男に声をかけた。

「ああ。耳が長くて体の大きさは大ネズミと同じ位って聞いたから、こいつに間違いないはずだ。よし、戻るぞ」

　ジャックはミレイナの特徴を確認し、さっさと引き上げるぞと大男に言った。
　ジャックと大男がそれぞれ、竜へと姿を変える。ミレイナを閉じ込めた檻を、前足で掴んだままだ。

［助けて！　誰か！　ジェラール陛下！］

　ミレイナは必死に叫ぶ。しかし、その叫びも虚しく、二匹の竜は空高く飛び立っていったのだった。