「あ、数学のノート教室に忘れてきちゃった」
「あらー、取ってきな」
「うん。いってくるね」
今回の範囲に必須の数学のノートを教室に置いてきてしまったことに気付き、立ち上がる。
目の前では奏多くんが高田くんに黙々と数学を教えているけど、高田くんは半泣きだ。奏多くんの額に青筋が浮き出ていて、そろそろキレそうなのが分かり、震え上がる。
図書室を出て、人の少ない廊下を小走りで進み、教室に着いた。ロッカーからノートを取り出し、図書室に戻ろうとしたとき。
「あれ?片山さん?」
聞き覚えのある声がした。
その声の方向を向くと、そこには愛理先輩がカバンを持って立っていた。
「愛理先輩、こんにちは」
「こんにちは。今帰り?」
「いえ、図書室で勉強してて」
「あ、そうなんだ。奏多どこにいるか知ってる?」
────愛理先輩、いつも奏多くんを探してる気がする。
まぁ、幼馴染だからなのかな……。奏多くんを好きになってしまった手前、少しモヤモヤする。
けど、愛理先輩は良い人だ。私は気を取り直して口を開く。



