狙われてますっ!




 俺はほんとうに、こいつを好きなのだろうか。

 帰り道、繁と渡真利の融合した状態で、繁は思っていた。

 身内としては、可愛いと思う言動も恋人としては、いろいろとアウトなんじゃないか?

 基本、汐音はマヌケがすぎるし。

 俺は私生活では、ホッとしたいから、お姉様タイプの手がかからない女性が好きなはずなのに……。

 だいたい、汐音は、国語のテストで、宮沢賢治の『注文の多い料理店』を
「題名のない音楽会」
 って書くような奴だぞ。

 ……まあ、なんかちょっと惜しい感じはするが。

 この間なんか、宅配便の人を
「印鑑屋さん」
 って言ってたし。

 ……いやまあ、間違ってないような気もするけどな。

 汐音を愛しているはずの渡真利の人格の方が汐音の言動に対して、容赦なく厳しく。

 繁的人格の方が、まあまあ、とそれを(なだ)めている感じだった。

 そんな汐音が助手席で、
「あっ、忘れ物しちゃった」
と声を上げる。