「今の電話、むち君から?」


 望愛の声にハッとして、瞬時に
 王子様スマイルを、顔にペタリ。


「ムッチーね、朝ごはんはいらないんだって」


「そっか。じゃあ今日は
 雨ちゃんと二人だけで、朝ご飯だね」



 いつもならここで

『望愛と二人きりなんて、
 神様とムッチーに大感謝だよ』

 愛情込め込めなジョークを、平気で飛ばせるのに。


 今の僕に、そんな余裕は1ミリもない。



「望愛ごめん。
 お皿に盛りつけるから、
 朝ごはんは、自分の家で食べてくれる?」


 僕は、情けない逃げ道を選んで。


「春休み中にやるように言われてた古典の課題、
 すっかり忘れてたんだ。
 今からやらないと、間に合わないでしょ?」


 誤魔化せているかわからないレベルの言い訳を
 なんとか言葉にして。


「後で、望愛の家に届けるから。ごめんね」


 苦しまぎれの笑顔を浮かべ。


 望愛を、僕の家の玄関から
 追い出してしまった。