「今日だけでいいから、ねっ」
今度は顔の前で両手を合わせ、上目遣いでちらり。
なぜか鬼コーチの態度がおかしい。
いつも纏っている攻撃オーラが、薄らいでいるような。
「あの……むち君……?」
「……」
「体調でも悪い?」
「そっ、そんなんじゃない!」
「寝不足?」
「いいから俺に構うな!」
私の背中が反射的に後ろに反るほど、荒々しく怒鳴られたから
「ごめんね……」
とっさに謝っちゃった。
「あ~、マジでムリ!」
「えっ?」
「俺に、どうしろって言うんだよ?」
独り言?
むち君は地面にしゃがみ込み、頭を抱えている。
漆黒のサラサラヘアを、かきむしったかと思うと
「ほんとにほんとに、俺のせいじゃないからな!」
これまた独り言っぽい遠吠えをひとつ。
スッと立ち上がったむち君は、私の前へ。
私の頭の後ろを包むように、大きな手の平を押し当ててきた。
この状況は……一体?



