まだ、青く。

「ただいま」

「お帰り、鈴。そうそう、今日会社の上司が鈴のこと誉めてたよ。ほら、昨日の夕方のニュースで鈴のインタビューやってたじゃない。それを見てオレも独身だから運命の相手占ってほしいって言ってたよ」

「そっか」


私はそれだけ言うと屋根裏部屋に登った。

ノートとペンを取り出して紙に自分の名前を書いた。


"夏目鈴"


辞書で漢字を間違えていないか5回も確認してから、指でなぞった。

けど、私に関する情報は何1つ掴めなかった。

他の人ならと思い、弟の名前を書いてなぞっても靄がかかってはっきりと見えなかった。

ぽっかりと穴が開いた。

私には何も無くなってしまった。

残ったのは、空っぽになった心と

人に言われて動くことしか出来ない体だけ。


私は一体何者なんだろう?

私は誰なんだろう?


文化祭の夜、眠りについて目覚めた時には世界が変わっていた。

ううん、変わったのは私が感じている世界だけ。

皆の感じている世界は変わっていない。

当たり前にあった声が消え、

もともと分からなかった自分の心は残り、

空虚という事実だけが存在している。

あの時美味しく感じた酸素は美味しくない。

あの時楽しいと感じた心はここにはない。

風に運ばれて空の果てに飛んでいってしまったのだろうか?

空っぽになった私は、もんもんとした毎日をやり過ごすしかなく、

気づけば11月も終わりを迎えようとしていた。