「ねー、まゆ?最近まっつんとなんか仲良しだねー?」

妙に感の鋭い楓が昼休みにそう言う。
私はなるべく気のない返事をした。

「そーぉ?そんなことないよー?ただ趣味が合うだけで」
「ふーん?」

今の会話で逃げ切れただろうか?
楓のことだ、きっと…何かを感じ取ってるに違いない。…余計なことを言わないだけで。

それから、私は松原との距離の測り方について、頭を悩ませていた。
なんせ相手はピュアボーイ。
恋のいろはなんて、すっ飛ばして私との距離を詰めてくる。

これは流石に痛い案件だと思う。
だって、楓はすっかり松原が私のことを好きだと思い込んでいるし…周りからも最近になってよくからかわれるようになった。

「なーんか、まゆっちの隣って落ち着く」

呑気にそんなことを言って退ける松原のおでこをぺちん、と叩いて私は心底呆れた声を出した。

「あのね、そんなこと言ってるから…っ…」
「なーに?」
音楽室の椅子に座ってがっつり足を組んていた私に、松原はなんとも恭しく片膝が汚れてしまうのも構わずに、そのまま床につけて、私の先の言葉を待つ。
あまりの近さに言葉が詰まる。
でも、わざと怒った顔を作って、松原に告げる。

「周りからまるで夫婦みたいだとか言われちゃうんだよ?」

そう、行った途端に、ちくん、とした胸の奥。
知らない。
こんな感覚には名前を付けられない。
私は、きゅっと口唇を噛み締めて、松原に再度こう告げた。

「楓が好きなら、ちゃんとしなよ」

そして、そのまま松原を残して席を立った。