「お待たせ」
 放課後、今日は午後も早い時間に学校は終わった。
 昇降口で待ち合わせをしていた北斗に声をかけられたとたん、美波の心臓は口から出そうになった。
 だってあの放送で北斗に、間接的に告白されてしまったのだ。どうしろというのか。
「さ、行くか」
 北斗はそう言って、美波を促した。
 しかし北斗の向かった方向は、家のある方向ではなかった。
「あの……?」
 美波は言いかけた。
 でも北斗は数歩前から美波を振り返って「ちょっと行きたいとこがあるんだ」と言ってきた。
 そう言われてしまえば、ついていくしかない。美波は「わかった」とそのまま北斗を追った。
 二人で歩く間、話すのはごく普通のことだった。
 夏休みに入るねとか。
 その間の部活のこととか。
 普通過ぎて、美波は拍子抜けするくらいだった。
 そのうち、暑くむしむしした空気の中に違うものが混ざりだした。
 これは水の匂い。
 北斗の行き先は河川敷だったようだ。
 そうだ、小さい頃、お母さんやお父さんに連れてきてもらって、北斗とも遊んだなぁ。
 美波は懐かしく思い出した。
 北斗は河川敷をしばらく歩いて、それから河辺へ降りることにしたらしい。階段のところで立ち止まった。
 その階段の前。
 すっと手が差し出されて、美波はどきんとしてしまった。
 なのに北斗は、ふっと笑う。
「ここ、ちょっと段差が大きいから。落ちるといけないだろ」
 その優しい言葉に、美波の胸は心地良くとくとく高鳴っていく。
「う、うん。……ありがとう」
 ちょっとどもってしまったけれど、お礼を言って、その手を取った。
 北斗の手は、暑い中なのだ。汗ばんでいた。
 でも不快ではない。それどころか、しっかりここにいてくれるのだと感じられた。