「じゃ、撮影は二時過ぎくらいに終わるから。スタジオまで来てくれるか」
「わかった!」
 一回、家に帰っていては、帰りが遅くなってしまうだろう。それに、スタジオのほうが目的地に近いそうだから。
「さ。じゃあ、俺は部屋に戻るかな」
「あ、じゃあ私も……」
 話も終わったので、北斗は部屋に戻るようだ。美波もそれに続いた。
「牛乳、よく飲んでるよな」
「好きだからね」
 連れ立って廊下を歩きつつ、美波は何気なく答えたのだけど、何故か北斗はにやにやした。
「チビだもんな。昔っから変わらねぇ」
 言われたことには、恥ずかしくなる。
 確かに自分は昔から、背が低めのほうで。
 男子である北斗のほうが、昔からすでに背は高かったのだけど、今ではもう、10センチ以上の差がついてしまっていた。
 その差が悔しいと思っているのに、そこをからかわれては。
「こ、これから伸びるんだよ!」
 美波は怒るやら恥ずかしいやらで強く言ってしまったのに、北斗には笑って流されてしまった。
 そのあと美波の髪になにかが触れた。
 なんだかひとの手の感触のような気がするけれど?
 美波は不思議に思って、そちらを見て、どきっとしてしまった。
 自分の髪に触れていたのは、北斗の手だったのだから。
 美波の視線よりずっと高い位置から、手を伸ばして、頭をぽんぽんとなでてくれる。
 美波は目を丸くしてしまった。
 こんなふうに触れられるなんて、小さい頃以来ではないだろうか。
 どきっと心臓が高鳴った。
「はいはい、そうだといいな」
 なのに北斗はいたずらっぽい目で、からかうようなことを言う。
 美波の顔は、かっと熱くなってしまった。
 からかわれたのだ。
 なのに自分は、ちょっと触れられたくらいでどきどきしてしまって。
 北斗の思い通りになってしまったのではないか。
「か、からかわないでよ!」
 勢いよく言ったけれど、顔が熱いのと、胸がどきどきいうのは、なかなか収まってくれなかった。