「な、なんですか!」
 その美波の前に、あずみがずいっと立った。
 美波を守るように。
「なんですか、なんて。よくわかってるでしょ?」
「ずっと学校休んでて、逃げてたくせに」
 すでに先輩たちは、美波を睨みつけるような視線を向けてくる。
 美波はごくっと唾を飲んだ。
 一歩、前に出る。
「あれは本当のことじゃありません。私は北斗の彼女じゃないですから」
 はっきり言った。
 こういうふうに絡まれることもあるだろうと思っていたから、言おうと決めていたことを。
「ふぅん? じゃあなんで抱きしめられてたのよ」
 一人の先輩が、嫌な口調で言ってきた。
 それも想定内だったので、美波は言い返す。
「私が傷ついたことがあったから、北斗が慰めてくれたんです。それだけです」
 それには先輩たちが顔を見合わせた。
 あまりいい顔ではなかった。
 むしろ歪んだような笑みで、美波の心臓を冷やしていった。
「確かに北斗くんは優しいから、ただの幼なじみの子にも優しくしてあげるかもしれないけど、勘違いしないでよね」
 一人の先輩がそう言った。
 確かにその通りだ。
 北斗は優しいから。
 でも、北斗が優しいと言っても、誰にでもしてくれることではない。
 それに、北斗は伝えてくれた。
 美波のことが特別だと。
 あれはその気持ちがあるからしてくれたのだ。
 きっとそうだ。
「してません。それに、誰に優しくするかは、北斗が決めることです」
 美波がたんたんと言い返したからか、その場の空気がなんだかよどんでいった。
 じわじわと薄暗いような空気がはい寄ってくるような気がして、美波はお腹の下に力を込めた。
 負けるつもりも、逃げるつもりもなかった。
 いくら北斗が守ってくれると言ったって、自分は逃げ回るだけなんて、そんな情けないことはしないと決めた。
「それが勘違いしてるのよ!」
 不快そうに顔を歪めて、一人の先輩が鋭く言った、とき。

 ポン、ポーン……。

 急に放送の音が入った。
 これからなにかアナウンスのあるときの音だ。
 その場の空気は急に変わった。
 みんな、音のしたほうをつい見ただろう。いつもそうするように。
 この時間に放送が入ることはない。チャイムならともかく。
 なにか急な連絡でもあるのだろうか、という空気になったけれど。

『おはようございます。今角 北斗です。突然のことですが、放送をしばらくお聞きください』