それに甘いのはチョコレートだけではなかった。
 触れている、ふわっとやわらかなもの。
 とてもやわらかく、あたたかく、そして甘い味がした。
 とくとくと自分の胸が高鳴っているのが自分でわかった。
 でもそれは何故か、とても心地いい高鳴りだったのだ。
 やがて、チョコレートはそっと離れていった。
 美波のくちびるに、甘い味と感触を残して。
「……甘かったろ」
 まだ近い距離で言われて、美波の頭はそれをぼんやり繰り返した。
 甘かった……。
 確かにとっても、甘かった……。
 ぼんやりしていたのは数秒だっただろうけれど、美波はやっと、はっとした。
 どくんっと心臓がいまさらながら大きく打って、顔もかぁっと熱くなった。
 さっきとは比べ物にもならなかった。
 なに、今、北斗に……。
 美波は、ばっと体を引いて、口をおおっていた。
 さっき触れられてしまったところを。
 ……キス、されてしまったところを。
「これでそろそろ自覚してくれるか?」
 北斗に言われても、美波の頭は熱でぐらぐらしてきていた。
 顔と頭の中と、それから体も、ほてったようにとても熱い。
 北斗が言ってきたことなどわからなかった。
 ただ、「か、帰る!」となんとか立ち上がった。
 そして乱暴に身をひるがえしてその場をあとにして、乱暴にドアを開けて、だだっと階段を駆け下りた。
 階段を下りたところで、はぁはぁと息をつく。
 心臓はまだばくばくしていた。
 体の中、全部が熱い。
 そしてもっと熱いのは、心の中。
 心臓よりさらに中の、心の中に火をつけられたようだった。
 チョコレートの甘さが残っていた。
 美波がそっと手を持ち上げて、触れた自分のくちびるに。
 ほんのり苦くて、でもとろりと甘い、チョコレートの味が。