北斗がなにを言ったのか。
 美波はよくわからなかった。目を丸くしてしまう。
 つまり北斗は、別におかしなことではないと思っているということ……?
 頭に浮かんで、かっと頭の中まで熱くなった。まるで熱が出たようだ。
 その美波を見て、数秒じっと見つめて、北斗は、はぁっとため息をついた。
「まったくお前は、ほんとに……」
 それはつぶやくような言い方だった。
 ほんとに……。
 そのあとに続くのはなんだったのか。
 美波にはわからなかった。
 けれど聞き返す前に、北斗が手を伸ばした。
 チョコレートの箱からひとつぶつまむ。やはりビターなチョコを。
「ま、チョコでも食って落ち着けよ」
 うながされて、美波は「う、うん」と自分も手を伸ばした。
 確かに、この妙な空気を払うには、甘いものでも食べて気分を変えるのがいいかもしれない。そう思って。
 美波は箱にあった中でも、色の薄いひとつぶを摘まむ。ミルクが多くて、一番まろやかなものだ。
 それを見て、北斗は何故か、くくっと笑った。
「美波はお子様だな。甘いのがいいのか」
 言われて、恥ずかしくなった。確かにこれが一番ミルクが多いだけあって、甘いけれど。
「チョコレートなんて、甘いものでしょ!?」
 甘いお菓子、チョコレート。
 それならより甘いものが好きだっていいではないか。
 不満を覚えて言った美波。
 北斗がその前で、にやっと笑う。
「これだって、ちゃんと甘いぜ」
 その笑みは、何故か美波の胸を、どきんっと強く跳ね上がらせたのだった。
「試してみるか?」
 北斗はよくわからないことを言い、手にしていたビターチョコレートを口に持っていった。かりっと食べる。
 試してみるって、くれるんじゃないの?
 のんきなことを思ってしまった美波だったが、直後。
 その肩が、ぐいっと掴まれて、引き寄せられた。
 一瞬で距離が詰められて、ふわっと香りが漂った。
 甘くて、ほんのり苦い、これはチョコレートの香り……。
 その香りを感じたのは、美波の鼻だけではなかった。
 くちびるからチョコレートの味がする。
 やはり甘くて、ほんのり苦い……。