一緒にやってきたのは裏庭だった。もうだいぶ暑いので生徒はいない。
 みんな、クーラーの効いたところでお昼を食べたいに決まっているだろうから。
 でもそれがむしろ好都合だった。ひとに聞かれる可能性は低いほうがいい。
 お弁当の包みを膝に置いて、美波はちょっと迷った。
 このままお弁当を開けて、食べていいものか、と。
 そんな空気ではない、とりあえず。
 あずみは「飲み物、買ってくる」と自販機に寄っていくと言っていて、美波は先に来ていたのだ。
 だからあずみを待とうか、とお弁当は開かずに待っていたのだけど、あずみはすぐにやってきた。
 手にペットボトルを持っている。
 二本。
 美波は首をかしげてしまった。
「はい。おごるよ」
 美波の反応には構わず、あずみは、とすっと隣に座ってきて、それを渡してくれた。
「あ、ありが……とう」
 戸惑いつつ、美波はそれを受け取る。ひんやり冷たかった。
 それはミルクティー。
 美波の好きなメーカーの、濃くて甘いもの。
 よく冷やされている、それ。
 あずみはさっさと自分のぶんを開けていた。
 それは無糖のアイスティーのようだ。口をつけて、ごくごくっと飲む。
 美波の胸が、とくんと高鳴った。
 お互いに違うものを好きでいる。
 でもあずみは、美波がなにを好きなのか、よく知ってくれているのだ。
 だから友達。
 今なら、言えるかもしれない。
 美波は、ぎゅっとペットボトルを握った。心地良いひんやりとした冷たさが手に伝わってきた。
「あのね、あずみ」
 美波が口を開いたときだった。
 ぽつんとあずみが言う。
「ごめん」
 謝る言葉だった。
 美波は一瞬、戸惑った。向こうから謝られるとは思わなかったのだ。