方野 美波、私立中央(なかおみ)中学校・二年生。
 勉強も運動も平均的な、ごく普通の女子中学生だ。
 見た目だって、飛びぬけて美人というわけでもない。ブサイクではないと思うけれど。
 サラサラの茶色の髪を背中に流して、身長はちょっと低め。
 人気でもネクラでもない、クラスに何人もいる女子生徒の一人である。
 そんな、ごく普通の女子である美波に最近起こった突然の事件が、今をときめく人気モデルの今角 北斗と同居することになってしまった、というものである。
 北斗とは、小学二年生まで近所で暮らしていた。
 一学年違って、北斗のほうが一歳年上であるけれど、幼稚園の頃から一緒なのだ。いわゆる幼なじみ、だろう。
 その北斗は、美波が小学二年生の頃に引っ越してしまって、住まいが離れてしまった。
 少し遠くの街だったので、それ以降の小学校生活は別だった。
 美波はとても寂しくなってしまったものだ。
 でも中学校の進学で、少し大きめの私立の学校に進学した美波はおどろいた。
 北斗と同じ中学だったのだから。
 そして北斗は小学校のときより、ずっとカッコいい見た目になっていて、中学で再会したとき、北斗はまだ二年生だったのに、すでに学校一のイケメンと女子の間ではうわさの的であった。
 おまけに小学校高学年から、モデルとしてデビューしていて、その整った見た目から、即座に人気モデルになってしまっていたのだ。
 女子小学生とは読むような雑誌が違ったので、美波はそれまでちっとも知らなかった。そのことを北斗に知られたときには、「うといやつだな。だっせぇ」なんて、怒られてしまったものだ。
 そんな北斗。
 一年間ほど、中学校で会うくらいしか接点がなかったのだけど、冬の終わりにある出来事が持ち上がった。
 北斗の両親が、海外出張することになってしまったのだ。
 でも北斗は人気モデル、できればこの街を離れたくないという事情がある。
 かといって、中学生に一人暮らしはできないし、おじいちゃんやおばあちゃんの家も遠い……。
 そこで白羽の矢が立ったのが、美波の家だった。
 なにしろ幼なじみだ。両親同士、家族ぐるみの付き合いが、以前はあったのだ。 
 そのことで、お父さんやお母さんが「北斗くんなら、よく知ってるし、良い子だし」と受け入れることにしたらしい。
 「海外出張から帰るまで」と期限付きではあったが、北斗は美波の家に住むことになった。
 美波にとっては、これ以上はないほど大事件、であったが。
 それで、この春、お互い中学三年生と、二年生に進級した一ヵ月ほど前から、同じ家で暮らしている。
 ただし、同じ家で暮らしていることは、学校では秘密であった。
 北斗に「言ったら出てく」と言われてしまっていて、美波はもちろん、秘密を守っていた。
 北斗はきっと、幼なじみの女の子、しかも年下の子の家に住んでいるなんて、知られたら恥ずかしいんだろうな、と推測していた。
 北斗に迷惑や嫌な気持ちをさせたくないし、美波はちゃんと秘密にしていたのである。