パシャパシャとシャッターの音が響いていたけれど、美波はほとんど意識できなかった。
 ただ、見つめてくれる北斗の目を、見つめ返していた。
 少し見上げる位置になる北斗。
 優しいその目に吸い込まれそうだ、なんて、見入ってしまう。
「はーい! オッケーでーす!」
 言われた声で、はっとした。
 ぽうっとしてしまっているうちに終わってしまっていた。
 急に恥ずかしく、そして情けなくなる。
 急ごしらえとはいえ、一応モデルとしてポーズをつけていたのに、ぽうっとしてしまっていたなんて。
 スタッフさんたちに、不真面目だと思われてしまっただろうか。
 でもそんな美波の前。手をそっと下ろした北斗は、にっと笑ったのだった。
「なかなか良かったじゃん」
「……えっ?」
 美波はきょとんとしてしまう。触れられたのが離れて、少し寂しく思いながら。
「ヘンに緊張したり、力入っちまうかと思ったけど、自然な感じで良かったよ」
 言われたこと。
 どきどき、と心臓が高鳴ってくる。
 ほめられた、とじわじわ染み入ってきた。
 うまくいった、のだろうか。
 ぽうっとしていて、かえって良かったのだろうか。
 それはうしろからかけられた声も、同じことを言ってくれた。
「ええ、良かったわ、方野さん。気を張りすぎると良くないですから」
 ほめられた。
 美波はもうひとつ、噛み締めてしまった。
 意識せず、だったが、良かったらしい。
 知った瞬間、安心した。へにゃっと力が抜ける。
 肩が落ちて、はぁ、とため息をついてしまった。
「なんだ、たった一枚撮っただけなのに疲れたのかよ」
 それは笑われてしまったけれど。
 確かにそうだけど、美波にとっては一、二枚だろうとどっと疲れてしまうほど緊張したのに。
「しょ、しょうがないじゃん……」
 なんとか言った美波。
 北斗は、それに「ま、そっか」と言ってくれて、そして何故か手を持ち上げた。
「ありがとな。助かったわ」
 ぽんぽん。
 頭になにかが触れた。
 美波はぽかんとしてしまう。
 頭……なに…、撫でられた!?
 目を丸くしてしまったのに、北斗はふいっと行ってしまった。
「戸成さん。今の、チェックできますか?」
 美波は数秒、それをぽうっと見守ってしまった。
 褒めてもらえたのもそうだが、頭を撫でてもらえた。
 それほどうまくやれた、と言ってくれたのだろうか。
 いや、でも。
 美波はどきどきうるさい胸を抱えつつ、思った。
 今のものは写真のときとは少し違う。
 今、目の前にいて、褒めてくれて、撫でてくれた北斗は。
 モデルの顔ではない、北斗だった。