私たちが結城くんを確かめた日から、夏樹が由真の側から離れない。

夏樹、どうしちゃったんだろう。今までこんなこと無かったのに。

私は湊にそっと聞いてみた。

「ねえ、湊。夏樹の様子が最近おかしくない?何かと由真に絡んでるよね」

「・・・、芽衣ってさ、鈍感だよね。」

「なんで夏樹の話なのに私が鈍感になるのよ!」

「芽衣はさ、おこちゃまなんだよな。この前も食べ過ぎて吐いてるし」

「それとこれとは関係ないでしょ!湊のバカ!」

「鈍感リバース芽衣!」

「もう、いつも私の悪口を言う!湊なんて嫌い!」

そう湊に言って、プイッと顔を湊から背けた。

「本当に、芽衣は鈍感なんだよ」

小さい声で、せつなそうにつぶやいた湊。

私のどこが鈍感なのよ。

「芽衣と由真がさ、結城のことイケメンって言うからだろ。夏樹だって、俺だってモテるんだからな!」

「うーん、夏樹がモテるのは、分かるけど。湊も?こんな毒舌男、モテる要素ないし」

なんて湊に反撃してみるけど、本当は夏樹も湊も女子からの人気はあると思う。

二人ともサッカー部でそこそこ活躍しているみたいだし、良く差し入れとか貰ってくる。

何人かから告白されたりもしているみたい。

特に湊は喋らなければかっこいいと思うよ。

喋るとボロが出るって言うか、すぐに毒舌になるから。

それでも何故かそれが女子には受けてて。年上からも年下からも人気がある。

一人、1年生の凛(リン)ちゃんていう子は何度も湊にアタックしては振られて、を繰り返している。

相当、湊が好きみたい。ひそかに私は凛ちゃんを応援してるんだよ。

それでもこの二人、特定の彼女は作らないんだよね。もったいない。

「由真ってさ、好きな奴とかいんのかな?」

急に湊がそんなことを言ってきて。

「由真に好きな人?どうだろう、聞いたことないけど・・・なに?湊って由真が好きなの?」

「ば、ばかじゃね。ちげーよ。俺じゃなくてさ」

あ!やっと気付いた!

「うわー、私って鈍感だったねー。夏樹の事、理解したよぉ」

「な、鈍感にも程があるだろ、芽衣はどうしようもねーな」

「ほんと、反省するわー。で、夏樹に協力するの?どうする、湊」

「まず、本人に告らせなきゃだろ。俺たちが動いてどーすんだよ」

「そうだよね。じゃさ、由真に好きな人がいるのかだけ聞いとくね」

「おう!でもまだ夏樹には内緒だかんな」

「了解!」

「で、芽衣はどうなんだよ。芽衣は好きな奴とか、いんの?」

「私?なんで今、私なのよ」

そう返事をしながら、ふと結城くんの顔が目の前に出てきた。

なんで、結城くんが出てくるの?


「芽衣の鈍感は死ぬまで治らねぇな」



それから数日後、いつもは4人で食べているお昼に、用事があるからと夏樹と湊に断って、由真と2人で食べることにした。

いつもは教室で食べるんだけど、今日は学校の食堂で。

「ね、由真。由真ってさ、その・・・好きな人とか、いる?」

「ストレートに聞いてきていいよ。夏樹のことでしょ?」

わ、やっぱり由真って私と違って鋭いな。

夏樹の気持ちを分かってるんだね、由真は。

「夏樹の態度がさ、見てると由真に向いてるんじゃないかなって思って」

「うん。私もそう思う。最近何もなくてもすごく近くにいるんだよね。笑っちゃうくらいに分かりやすいんだもん」

「それって、由真的にはどうなの?イヤなの?」

「ううん。イヤじゃないよ。私、夏樹の事好きだよ」

「えっ!じゃあさ、由真から告白する?」

「しないよ。夏樹が言ってくるのを待ってる。じれったいけど、もう少し、待っていたいかな」

「でもさ、そうやって待っている間に夏樹が他の子に取られちゃうかもよ。夏樹って結構モテると思うけど」

「夏樹が他の子を選ぶんだったら、それまででしょ。私のことを好きでいてくれるんなら、他の子なんかに目を向けない、、、と、信じてる。あまり自信はないけどね」

由真はそう言ってはにかんだ。

こんな綺麗な由真でも自信がなくなることもあるんだ。

夏樹、早く告白しちゃえばいいのに!

「私のことより、湊はどうなの?」

「へ?湊? 湊がどうかした?」

「私から見てると夏樹よりも湊の方が分かりやすいと思うんだけど」

由真は何を言ってるんだろ?

「分かりやすいって、なにが?」

「・・・やっぱり、芽衣は鈍感だよね」

「やめてよ、由真まで湊と同じこと言わないで」

「湊が芽衣は鈍感だって、言ったの?」

「うん。鈍感リバース芽衣だってさ」

それを聞いて由真が大爆笑して。

「あははっ!湊、可哀想すぎるーーー」

なんて言ってる。

なんで由真が笑っているのかイマイチ分からないし、可哀想なのは湊じゃなくて私の方だよ。

変なあだ名付けられたしさ。


由真と2人で湊の話をしていたら、

「芽衣?」

私の後ろから急に誰かに名前を呼ばれて。

振り向くと後ろの席に結城くんと他に2人のお友達が座ってて。

「あっ、結城くん。なんか久しぶりだね。この前は湊がごめんね」

「なぁ、その湊ってやつと芽衣って、どんな関係なの?前は湊ってやつに芽衣が世話になったな、なんて言われるし。今は芽衣から湊がごめん、ってさ」

「湊?湊は友達だよ。なんで?」

それを聞いていた由真が

「あぁ、湊。残念だね、友達だって」

と言って頭を抱えていたなんて、気付かなかった。


それと同時に結城くんのお友達がニヤニヤしているのにも、気付かなかった。


「芽衣はさ、付き合ってるヤツいないって言ってたよな?」

「そうだよ、いないよ?」

「じゃ、ずっと彼氏作るなよ」

「はい?なんで結城くんにそんな命令されなきゃならないのよ」

「約束、しただろ」

「約束?なにそれ?いつどんな約束した?」

「覚えてないなら、もういいよ。じゃあな」

そう言って結城くんはお友達2人をその場に残し、食堂を出て行ってしまった。

結城くんが見えなくなると、お友達2人が私たちの席に移動してきて。変な組み合わせの4人になる。

「芽衣、ちゃん?ってさ、和真のなに?」

「なに?って言われましても。この前偶然駅で助けてもらっただけの関係ですけど」

するともう一人の友達が、

「和真はさ、一切女の子に対して優しくないし、話し掛けないんだよ。必要最低限のことしか話さないの。しかも下の名前で女の子を呼ぶなんて、考えられないんだよね。クラス中がこの前の和真のあまりの変わりようを見て、驚いてさ」

「そうかな?結城くん、すごく優しい人だと思うけど。クラスの皆、結城くんを誤解してないかな?まぁ、多少は俺様っぽいところもあるけど、普通に笑ってくれるし、話もするよね?」

『いやいや!!そんなことないから、びっくりしてるんだよ』

結城くんのお友達2人が声を揃えて私を否定した。

そこまで会話を聞いていた由真が、

「それって、結城くんが芽衣の事を特別に思ってるみたいじゃない?」

するとまた結城くんのお友達2人が

『だよなー!俺たちもそう思う』

って、声を揃えて由真に同調してきた。

「そんな訳、ないよ」

なんて否定したけど、私の顔は赤くなって。

それにしても、約束って、なんだろう?結城くんとは駅で初めて会ったんだし。その時にそんな約束なんてしてないよね。

誰かと勘違いして、、、る?