私は暗く長いトンネルの中にいた。

ここは、どこなの?出口はどこ?

なぜこんなに悲しいの?

ああ、思い出した。

みーくんとまーくんにお別れをしたんだ。

お母さんから手術をするからもう二人には会えないんだよ、って言われて。

さよならをしてね、って言われて。

もうすぐ中学生になるお兄ちゃんの、みーくん。

私と同じくらいの背の高さで、「芽衣ちゃん」と言っていつも私にくっついていた、まーくん。

お別れの日、まーくんがずっと泣いていて。

それにつられて私も大泣きして。

「元気になったら、お嫁さんになる」って約束したんだった。

その言葉はまーくんに向けて。

私は早く元気になってまーくんに会いに行かなければいけないんだ。

遠くから私を呼ぶ声が聞こえる。

私を呼ぶ人の、そこへ行かなければいけない。

まーくん、どこにいるの?

まーくん、私、元気になったよ。

まーくん、会いたいよ。

「まー、く、ん」

眩しい光が見えた。やっと長いトンネルから抜け出すことができた。

私を見ているこの人は、誰?

まーくんじゃ、ない。

私を「芽衣」と呼ぶ、この人は?


私はお父さんとお母さんを見て、安心して。

「まーくんは、どこ?」

そう聞いて、また瞼を閉じた。


次に見た夢は、和真と手を繋いで知らない場所を歩いているところ。

ここは、どこだろう?

長い坂道の中腹、和真の手を離し、私は走っていた。

私は和真から逃げたんだ。でも、どうして逃げたの?

和真は悪くないんだよ。どうして私は逃げたの?どうして堂々としていられなかったの?そんなに弱い人間だったの?

私が私から責められている。

もう、絶対に和真の手を離してはいけないんだよ、芽衣。

ごめんね、和真。手を離してしまって、ごめんね。

早く私を見つけて。もう一度、私を探して。



もう一度、光に向かって走り出す。


「か、ずま」


そこには私を心配そうに覗いている和真がいて。

和真が泣いている。そんな哀しい顔をしないで、和真。

私は和真の頬に手を伸ばし、和真の涙を拭った。

すべて思い出した。京都にいたんだ。和真と、京都に。

「芽衣!芽衣!」

和真は私の両親や看護師さんたちがいるにもかかわらず、私を抱きしめてきた。

「和真、人前だよ。離れてよ。恥ずかしいでしょ」

「ごめんな、芽衣。本当に、ごめん」

「和真は悪くないでしょ?逃げた私が悪いんだよ。和真の手を離してしまって、ごめんなさい」

「芽衣、もう絶対に離さないから。ずっと側にいるから」

「うん、嬉しい」

そんな和真の恥ずかしくなるような告白を聞いて、お父さんが

「まぁ、まだ高校生なんだし、二人でゆっくり大人になって行きなさい。焦ることはないんだから」

それは、私と和真を認めてくれたってことだよね?

私と和真は見つめ合って、微笑んだ。


脳と心臓の精密検査をして、どこにも異常がないことが確認できたから、明日退院できることになり、学校への登校も許可が下りた。

学校へはお母さんが連絡してくれて。

その日のうちに担任の先生と由真、夏樹、そして湊がお見舞いに来てくれた。

湊は病室に入ってくる前から泣いていたようで、ベッドに座っている私を見るなり、抱き着いてきた。

湊、やめて!和真が見てるから!和真に怒られるよ。

あれ?和真がそんな湊を見ても何も言わない。

逆に微笑んでない?

「湊は許すよ。これから先、芽衣を抱きしめていいのは俺と湊だけだからな」

えーーっ!和真、どうしちゃったの?



後から由真に聞いた話。

歳を取って、もし私よりも先に和真が死んじゃったら、私のことは湊に託すって。そんな約束を和真が湊に提案したんだって。

どこかで聞いたことのある、遠い未来の話。

ねぇ、和真。あなたと湊って本当に似ているよ。


そして湊がお見舞いだと言って持ってきてくれたのは、10個入りと書いてある箱に、3個だけ残った八つ橋だった。

「芽衣は京都の土産、買えなかっただろ?せっかくだから八つ橋食えよな。ちなみに賞味期限は今日までだから」

これ、明らかに食べ飽きた八つ橋だよね、湊。