高校2年生の夏休みといえば、大学のオープンキャンパスに行くのが当たり前で。
早い人は高校1年生から行ってるのに。
私は夏期補習と検査入院とで夏休みが終わってしまったから、どこの大学にも見学に行けなかった。
湊でさえ、興味のある大学を見学したって言うのに。
湊は体育学部のある大学に行きたいんだって。
なんかとっても似合うよね。
由真は美容師になりたいから、美容の専門学校を希望してて。
由真もとっても美容師が似合う。
夏樹は学校の先生になりたいから、国立大の教育学部に行きたいって。
夏樹は優しいから、絶対に良い先生になれるよ。
私は・・・・、漠然となりたい職業はあるんだけど、なかなか皆に公言できないの。
だって大学生になれるかがまずは問題だから。
和真は?私、和真の将来のこと、聞いたことないかも。和真はどこかの大学を見学したのかな。
私ってどうしてこんな大事なことを聞かないんだろう。
今日の練習終わりに和真に相談してみたいけど。
私の夢なんて語ったらバカにされないだろうか。
放課後、私は少しドキドキしながら体育館の2階へ上がった。
もしそこに高柳さんがいたらどうしよう、ってずっと考えてた。
2階をぐるっと見回して、高柳さんがいないのを確認して、いつもの場所で和真の練習を見学する。
やっぱり和真はかっこいいよね。
見るたびに好きが増える。
あ、和真が私に気付いた。
今日は私から小さく手を振ってみた。
「芽衣!今日は勝手に帰るなよー」
って。練習中に大声で叫ばないでよ。
また私隠れなきゃならないじゃない。
練習が終わり、私と和真は並んで歩き駅に向かう。
私は和真に大学のことを聞いてみた。
「和真はさ、オープンキャンパス行った?」
「あー、俺はもう行きたい大学決めてるから、行ってないよ」
「そうなの?どこに行くの?」
「うん、親父も兄貴も行った大学なんだけどさ、そこの医学部」
「初めて聞いたかも。和真もお医者さんになるんだね」
「大学に受かったらな。まだ分からないだろ」
「和真なら大丈夫だよ。良いお医者さんになれるよ」
「そっか?ありがとう」
和真もしっかり将来の事を決めてるんだね。私だけが中途半端。
「俺さ、心臓外科医になりたいんだよ。すっげ―難しいのは分かってるんだけど」
「心臓外科医かぁ。私が沢山お世話になったところだね」
「うん。俺さ、小さい時に芽衣と出会っただろ。その時の芽衣の病気が心臓の病気って聞いててさ。大きくなったら俺が芽衣の病気を治すんだって。その時から目標はずっと心臓外科医なんだ」
「えっ?そんな小さな頃からの目標をブレることなく叶えようとしているの?和真って、凄いんだね。尊敬する」
「俺、芽衣の為なら何にでもなれる気がするんだよ」
うわ、顔が熱くなる。和真っていつも平気でそんなことをサラっと言う。
「あれ?芽衣、顔赤いよ?なに、照れてんの?」
意地悪く和真が私の顔を覗いてくる。
「もう、ワザとなの?どうしてそんなカッコいいことをサラっと言えちゃうの。そんなの照れるに決まってる」
「あははっ。芽衣、可愛い」
私は和真から顔を背けた。本当に、この人は!
「芽衣は?何かやりたいことないの?俺も芽衣の将来について聞いたことない」
和真、あなたの大きくて立派な将来像を聞いた後に私の話ができると思う?
「和真の、お嫁さん」
私はもうこれしか反撃できなかった。
それが和真を撃沈させるとは、思ってもみなかったけど。
「うわっ!芽衣、マジで言ってんの?本気?なんなら今でもいいよ。うん、結婚しよう、すぐにしよう。芽衣、愛してる!!」
あ、和真が壊れた。半分冗談だったのに。
「ふふっ。和真も可愛い」
「で?ちゃんと聞きたい。芽衣のこと。高校卒業したら、どうするの?」
「うん、一応大学に進学したいとは思ってるよ。私ね、なれるか分からないけど、病理保育士になりたいの。資格は保育士なんだけど、子供の病気のことをたくさん勉強して、病児保育とか病院の小児病棟とかでお仕事ができたらな、って考えてる」
「芽衣!凄いよ!それ芽衣に絶対合ってる。芽衣なら子供たちの気持ちが理解できるし。うちの病院に来てた時に小児病棟で子供たちの世話してたの見てさ。その時の芽衣、病気の子の様子を見ながら遊び方を考えてたでしょ?楽しそうだった。なれるよ、芽衣。一緒に頑張ろう」
うわ、こんなに褒めてくれるなんて。和真に話して良かった。
「俺、なんか嬉しい。芽衣のそう言う話が聞けて」
「ありがとう。そう言ってもらえて私も嬉しい」
「兄貴が今、小児科にいるのは知ってるよね?色々聞くといいよ。いつでも会いに行きなよ。あ、でも恋愛感情は抜きにしてね」
「もう、当たり前です!」
「じゃあさ、今度俺の目指してる大学のオープンキャンパスに行ってみない?もちろん、デートも兼ねて」
「いいの?一緒に行ってくれるの?嬉しい」
「デートの方がメインだけどね」
「うん、デートも嬉しい。和真とお出かけするの、初めてだね」
「うわ、俺の方が楽しみになってきた。早く行こうな」



