「男子の立つ調理場も面白いんじゃない?」と、今日の片づけは健人と唯人君がやってくれた。

 唯子はソファに座って、膝を抱えている。

 「ねえ」と、今までよりうんと高い声が言った。

 自分が呼ばれているのだとわからなくて、黙っていると、「ねえ」ともう一度声が飛んだ。

 「え、わたし?」と確認すると、唯子はこくんと頷いた。

 「餃子、美味しかった」と一言。

 飛び上がりそうなくらいの嬉しさが、全身を巡った。飛び上がるのも、大きな声を出すのも我慢して、だけど思い切り笑う表情筋には反発せず、「でしょう?」と返した。

 「ほっぺた落ちなくてよかったね」

 唯子はぎゅっと膝を抱え直して、そこに顎をうずめるようにして、「落ちそう……だった」と呟いた。

 それにはとうとう、「え⁉」と声を上げずにはいられなかった。「本当⁉」

 「……美味しかった」

 「いやあ、嬉しいなあ。……でも、それは唯子ちゃんも一緒に作ってくれたからじゃない? 健人も、唯人君も」

 唯子はなにも言わなかった。代わりに、「……健兄のこと、不幸にしたら許さないから」と、今まで通りの低い声が言った。

 「え、なに?」

 なになに、急に。

 唯子は姿勢を正して、足を下ろすと、まっすぐにわたしを見た。

 「健兄と、幸せになってよね」と、かわいい声が言う。その声はもう、唯子のものではないくらいにかわいかった。健人や唯人君と話しているときと同じ声だった。

 「相川さん」――。

 かわいい声が初めて、わたしの名前を呼んだ。

 清々しい風に吹かれたような、開放感のような喜びが、心地よく胸の奥を満たした。