「同じくらいの年齢だろうなと思った。ああ、あんな人がこんな料理を作ってるんだと思ったら、憧れというか、尊敬というか、そんな気持ちが湧いた」

 健人はこちらを向くと、ふわりと優しく、テレビで見たことのあるような笑みを浮かべた。

 「それは、去年の夏休み」

 ああ、そっちか。なるほど、夏休みだったか。それなら、わたしはいくらでもあのお店にいた。

 「そして二学期。心臓が止まるかというほど驚いた。学校に、あの厨房の中の人がいたんだよ。お店にいるときよりも高い位置で結んである髪の毛は、ちょっと新鮮だった。そして、二年への進級。厨房の人の名前を知った。――相川文乃さん」

 「……うん」

 「見ていると、どんどん惹かれていった。友達と一緒にいるときの笑顔が大好きだった。すごく、かわいいと思った」

 顔が熱い……気がする。もしかしたら、赤くなっているかもしれない。

 わたしは健人から目を逸らすように、俯いた。

 「……ほ、褒めてもなにも出ないぞ」

 「これ以上、なにも要らないよ」と健人は言う。ああ嫌だ、恥ずかしい。顔が熱い。馬鹿じゃないの、なんて茶化しても、本当だよとか言うんだろうな。それどころか、馬鹿でもいいとか言うかもしれない。

 「友達と一緒にいるところを見て、優しい人なんだろうと思った。この人なら、と思った」

 唯子ともうまくできそうだし、料理もできるし、使えるってね。うん、そういうことだろう。

 「そ、そんでわたしを脅したわけ?」

 「かわいい人にはいたずらをしたくなるものじゃない?」

 「馬鹿じゃないの」

 ははは、と彼は楽しそうに笑う。「怒った」

 「怒ってない」

 「……かわいい」

 ぽん、と頭に乗った手を、「触るな」と払う。

 「おれ、相川さんのことが大好きなんだ。……相川さんは?」

 見てみると、健人の目が、薄っすら開いていた。

 「おれのこと、嫌い?」

 「……別に」

 「ん?」

 「嫌いじゃない」

 なんだか悔しくて、いじけた子供みたいな言い方になってしまった。

 「じゃあ、好きって言ってもらえるように頑張らないとね」

 「馬鹿じゃないの」

 「もう少し賢くならないとだめみたいだね」と、健人は楽しそうに言う。

 「これからも、一緒にいてくれる?」

 「……別にいいけど」

 「本当?」

 「わたしだって、嘘は好きじゃないわよ」

 そっか、と、健人は小さな子供のように笑った。――なんだ、そんなふうにも笑えるんじゃん。

 「さて、明日はどんな服用意しようかな」

 「え、まだ続くの⁉」

 「相川さん、かわいいからね」

 「は?」

 「相川さんみたいなかわいい人があんなかわいい服を着てたら、かわいいに決まってるでしょう? おれは毎日、どんなかわいいができるか楽しみなんだ」

 「……前言撤回」

 「ん?」

 「前言撤回! 嫌よ、もうあんな服!」

 「どうして? 似合うのに」

 「そういう問題じゃない! てか、似合ってないし。キャラ違うし!」

 「ピンクの服にうさ耳とかもいいねえ」

 「いくない!」

 「オレンジっぽい服に猫耳もいい」

 「なんで耳くっつけなきゃいけないの!……嫌い! あんた大っ嫌い!」

 「ああ……嫌いって言われるのも悪くないねえ。かわいい」

 「はあ……⁉」

 相川さんは本当にかわいい、と言って、また頭へ伸びてくる手を、わたしは思い切り叩いた。

 「触るな!」と叫ぶと、「相川さんがかわいいのが悪いんだよ」と健人は言う。「しかもそんなふうに嫌がるくらいじゃあ、もっとなでなでしたくなる」

 相川さんみたいなかわいい人はいじめたくなっちゃうからねと言う彼へ、黙れガキンチョ!と返す。