具材を炒めて、茹でたパスタを加えて、ケチャップと塩コショウで味を調えて、というだけの簡単なナポリタン。ベーコンとかコーンなんかがあれば、それだけでももう少し華やかになったんだろうけれど、なかったので仕方ない。それでもそれなりに美味しく食べられるのは、みんなと一緒という魔法の調味料のおかげ。


 「で、なんであんたと二人?」

 夕方のスーパー。わたしは、隣に立つ健人に、改めて尋ねた。

 「おれのわがままだよ」となんでもないように言って、彼は棚から一つ、梅干しのパックを取って買い物かごへ入れた。

 「相川さんと一緒にいたい。だから二人できた」

 「唯子ちゃんは?」

 「唯人がいる」

 「あんたは、本当のところ、なにがしたいの?」

 唯子を人に慣れさせたいと言っていたけれど、その割に、唯子に寂しい思いをさせたりする。本当に唯子のことを思っているのなら、唯子が疲れたときのためにそばにいるべきだと思う。でも健人は、こうして、唯子に、もうわたしを見ていないとまで感じさせている。

 「おれ、嘘って苦手なんだ」

 「……なんの話?」

 「おれは嘘が苦手なんだ。だから、本当のことしか言えない」

 「……はい?」

 なんだろう、唯子といい健人といい、わたしは桜庭家の人の言葉を理解しきれないところがある。

 「相川さんに言ったことは、全部本当だよ」

 「言った?」

 なにか言われたっけ?

 「唯子のことも、料理のことも、相川さんのことも」

 「……ん?」

 だめだ、わからない。

 「唯子に人に慣れてほしいのも本当。おれの料理が毎日同じようで二人に申し訳なく思ってるのも本当。相川さんのことが大好きなのも本当」

 「……本当?」

 なんだ、この人は。すべて本当だと言うのに、そのすべてが嘘くさい。どうして?

 「本当なの?」

 「本当だよ。ずっと、唯子と一緒にいてくれる人がいればと思ってた。それと同時に、いよいよ新しい献立が思いつかなくなって、どうしようかなあ、どうしようかなあって」

 「ほう……」

 結局のところ、いいお兄ちゃんではあるのかな。

 「それで、なにか真似できそうな料理はないかと、休日、三人でファミレスを回るようになった。そして、あそこで」

 わたしを見つけた、ということなんだろう。わたしが働いていたファミレスは、席によっては厨房が見える作りになっていた。わたしの担当は、学校からは離れた場所だけれど、それでもなるべく目立たないようにキッチンだった。けれど健人はその、厨房が見える席に着いたことがあるんだろう。それも、土日にシフトが入った珍しいときに。