調理場に入って、「今日はなににする?」と言うと、「ナポリタン食べたい」と珍しい声が飛んできた。

 「ほう」

 唯子の方を見ると、「いいんじゃない?」と返ってきた。

 「今日はおれも参加しようかな」と健人が腰を上げると、唯子は健兄が料理するんだ、と言うように、うきうきした様子で調理場を離れた。

 「珍しいツーショットだね」と、唯人君が、両手の親指と人差し指で作った長方形を覗き込んだ。

 「玉ねぎとピーマン切って」とわたしが言うと、健人は、「仰せのままに」と頷いて、真ん中の台からピーマンと玉ねぎを取ってきて、作業台に、手早くまな板と包丁を用意した。すぐに、トントントン、と心地いいリズムが刻まれ始めた。

 わたしはパスタ鍋に水を入れて、火にかけた。

 まな板を叩く音が、時折、いたずらに止んで、少し間を置いてから、また鳴り出す。

 「手際、いいね」

 「相川さんには敵わないよ」

 さすがにプロには、と健人は続けたけれど、それを嫌味としか受け取れないのは、健人の“細い目”を見てしまったからなのか、わたしがすっかり純粋さを忘れてしまったからなのか……。