服を着替えて調理場に入ると、「わたし、あんたのこと嫌いなんだけど」と唯子は言った。

 「そりゃ申し訳ない」

 「あんたなんかいなくたって、ごはんくらいわたし作れるもん」

 返ってくる言葉が意外で、わたしは乗ってみることにする。

 「さあ、本当かしら。わたしのごはん、結構美味しいわよ?」

 「ばっかじゃないの、全然美味しくないけど」

 「そうかなあ? そんなこと言う割に、美味しそうに食べてたじゃない」

 「わたしの演技の上手さに騙されただけでしょ。生まれ持った才能っていうの? 開花しちゃった感じ」

 「生意気ねえ、このガキ」

 「なによババアのくせに」

 「ババアってなによ、このクソガキ! わたし、まだぴちぴちの十七歳なんですけど」

 「いや十七って」と唯子は笑う。「クソババアじゃないの」

 「なによクソババアって」

 「あんたが先にクソガキって言ってきたんでしょう⁉」

 「そんな汚い言葉使うわけないでしょう」

 「なによあんた、鳥頭だってもう少し覚えていられるわよ!」

 唯子はぷいっと、ソファの背もたれから覗いている二人の兄の顔を見た。

 「ねえ健兄、だめよこの人。やっぱり」

 「ちょっと、やっぱりってなによ!」

 唯子は鋭い目で振り返る。

 「見た通りってことよ。想像通りってこと」

 「そんなに頼りないかしら⁉」

 「あんたなんかを頼る人なんていないわよ!」

 「わお、突然の兄貴全否定!」健人君、悲しむぜ……?

 見てみれば、健人は困ったように笑っている。その隣で、唯人君は楽しそうににやにや。

 唯子はもう一度兄の方を見ると、驚きを紛らわせるような笑みを浮かべて、カクカクとこちらを振り返った。そうしてわたしを見た途端、怒ったような顔をする。表情豊かなお嬢様。

 「わ、わたしは、あんたのことなんか認めないから!」

 絶対認めないから!と叫ぶ唯子が少しかわいくも思えて、わたしは笑った。それに、笑わないでよ!なんて声を上げるのは、わたしにはもう、もっと笑ってと言われているようなもので、お腹が痛くなった。