「やあ相川さん」と扉を開けてくれたのが健人で、わたしはぞっとした。

 「なに、なんであんたなのよ」わたしは大げさに腕をさすりながら言った。

 「だって相川さん、部屋で待ってたら、またノックもせずに扉を開けるでしょう?」

 健人が、「どうした?」とやけに優しい声を出したかと思えば、彼のすぐ後ろに唯子がいた。健人の服の腰辺りを、きゅっと両手で握っている。健人は、よしよしとでも言うように、妹の髪を撫でている。それに、気持ちよさそうに目を細める唯子。――ちくしょう、かわいいなお嬢様。猫みたいな仕草しやがって。

 「いやあ、かわいい女の子がいっぱいって嬉しいね。小動物みたい」

 「はあ? つうか、わたしはあんたのペットになるためにここに来てるんじゃないの。そんなことのためなら、帰るけど」

 「え?」と、健人が目を開いた。いや、実際にはいつも開いているのだけれど。正確にはあの、“細い目”になった。

 「相川さん、そんなこと思ってたの?」

 ひんやりした声に、わたしは唾を飲み込んだ。大丈夫大丈夫、びびるな、わたし。

 「なにが」

 「相川さんは、おれのペットになるために来てたの?」

 「馬鹿じゃないの、そんなわけないでしょ。あんたのすっくない料理のレパートリーを広げてあげるために来てるの。馬鹿なの、本当に」

 「なーんだ」と、彼は目を、糸のように細く戻した。

 「でも、おれは違うよ」

 「うるさい」

 言わなくていいわよと、わたしは必死に気を送る。すぐそばに唯子がいるのよ? 唯子に人に慣れてほしいからなんて、知らせる必要はないでしょう?

 言ったら殴る、と心を決めると、健人にも通じたのか、ただの気まぐれか、彼はなにも言わずに、楽し気に笑った。