「なにより九十八年に出たアンノウンだよ。あれは本当に最高。実際、名盤だって言ってるファンも多いんだよ」、「アンサートンは?」、「あれは違う人、ニックじゃない」などと話しながら、二人は戻ってきた。多分、話題はあのR&Bなる音楽。名盤、なんて言葉が聞こえてきたから、そのCDとか歌手について話しているんだろうなと、わたしは想像する。

 しかし九十八年とは。わたしたちなんて生まれてもいない。そんな頃に出たCDにも詳しいのか、唯人君は。常にヘッドホンを首にかけているので音楽が好きなのだろうとは思っていたけれど、それもまた、わたしの想像を超えるものらしい。

 そこまで考えて、わたしはもしやと思った。隣に立っている唯子を横目に見る。この常にイヤホンを首にかけてる系お嬢様も、R&Bの本当の名前をすらすらと言っていた。こやつもかなりの音楽好きか……? 生まれる前の音楽やCD、歌手にも詳しいかもしれない。なんだ、この兄妹は。すべての分野でわたしの想像の遥か上を行かなければ気が済まないのかな。

 わたしは鍋を温め直した。

 茹でたうどんを氷水でしめて、器に盛る。

 「それだけで美味しそう」と言う唯人君へ、「早くない?」と笑い返す。

 薄めずに使えるというめんつゆを適量注いで、解凍したとろろとオクラを加え、梅干しを乗せると、千切りの大葉を添える。最後に、ほんの少しだけ火を通したゆで卵を割った。

 「オクラとろろの温玉大葉うどんフィーチャリング梅干し、完成!」

 ぱちぱち、と手を叩くと、唯人君も続いてくれた。