5時間だけのメイド服

 ……これで本当に辞めちまうんだから、わたしってやつはもう――!

 入っていたシフトを全部こなして、一学期が終わる二日前を最後に、あのファミリーレストランに、アルバイトとして行くことはなくなった。ああ、なにしてるんだよ、わたし。

 そして、夏休み初日の今日。後悔しても遅いとか、後悔先に立たずとか、そんな言葉を再確認するような気持ちで、わたしは、真夏日の中、さんさんと降り注ぐ太陽の下、桜庭家のお屋敷の前に立っている。

 「でけえよ、家。迷うよ、これ」

 やっぱり断り続けるんだった、あのファミレスが恋しい、と思いつつ、体は覚悟を決めているようで、チャイムを鳴らした。呼び鈴、というよりも、ベル、という方がしっくりくるような音が響く。ピンポーンという感じじゃなくて、なんだか、カンカンした音。

 「はい」と男の人の声が聞こえる。桜庭君とは、少し違う気がする。こういう機械を通しているからかな。

 「相川です」と答えると、「ああ、ただいま」と声が返ってきて、通話が終わった。

 がちゃりと扉が開いて出てきた少年は、桜庭君……桜庭健人よりも小柄だけれど、彼よりも大人びた印象だった。

 彼は「どうもどうも」と、へらへら、といった様子で笑う。

 「僕、健人の弟のユイトです」

 わたしたちを隔てる洒落た門を開きながら、彼は言った。

 「ユイト……君」

 どんな漢字なんだろう。

 「唯一の唯に、人です。タダヒト、じゃないですよ」

 わたしの考えを察したように続いた言葉に、「唯人君ね」と、小さく笑いつつ頷く。

 「タダヒト、なんて読まれたことあるの?」

 「小学生の頃、担任の先生が出張のときに来た先生に。調べてみれば、唯って、ただ、とも読むみたいなんです」

 間延びした声に、「そうなんだ」と返す。初めて知った。

 「ああ、暑いですし、どうぞどうぞ、入ってくださいな」

 「ああ、どうも……」