扉を開けると、「ノックをしておくれ」と言う健人が迎える。
「ノックなんか要るもんか」
「要るに決まっているだろう。相川さんへの想いが爆発して暴れ回ってるところかもしれない。そんなかっこ悪いところ見せられない」
「見せられないなら聞かせないでよ」
それもそうだねと健人は笑う。
「ところで。唯子お嬢様のご機嫌が斜めを通り越してまっすぐになりそうなんだけど、なんかあったわけ?」
「まっすぐならいいじゃない。普段通りってことさ」
「元が横なら今は縦になりそうなのよ。えらい機嫌が悪いようだけど、なんかあったの?」
「いや? 特にはなにも」
「そう……」
「なにかあったの?」と、今度は健人が言う。
「いや、こっちも、特にはなにも。ただ、数日前のように、失せろと怒鳴られた」
「おやおや、それはよくない」
「まあ、別に驚かないんだけどさ。ただ、なんかあったのかなって。昨日、一緒に買い物も行ってくれたし、ちょっと仲良くなれたのかな、なんて思わせてくれたからさ」
「うん……。かなり微笑ましい光景だったんだけどね……」
「あんたがなにかいじめたんじゃなくて?」
「いや、そんなことは……」
健人はしんみりと言って、俯いた。なにを言う、おれは唯子を愛してるんだ!とでも言ってくれることを期待していたので、わたしは少し焦る。
わたしはこっそり深呼吸して、「とにかく」と手を叩いた。「外出てよ。どうせ今日も、派手な服用意してるんでしょう?」
「ああ」と頷くと、彼は「きっと似合うよ」と明るく言って、部屋を出て行った。
今日の服を見つけた直後、叫びだしそうになったけれど、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせた。ピンクと茶色の服で、目につく場所全部にフリルを付けました、みたいな形。もちろん、この服自体はとてもかわいい。それこそ、猫耳のカチューシャでも着けたら最高じゃないかとも思う。けれど……。
「違うんだよ、わたしじゃないんだよ」
こういうのを着るのはさ。もっとかわいらしい子が着るべきなんだよ、そういう子が着こなせるんだよ、わたしじゃないんだよ、わかるじゃん。
大丈夫大丈夫、と、改めて自分に言い聞かせる。これは制服。あくまで、料理をするときにわたしの服が汚れないように、着替えるもの。
「ノックなんか要るもんか」
「要るに決まっているだろう。相川さんへの想いが爆発して暴れ回ってるところかもしれない。そんなかっこ悪いところ見せられない」
「見せられないなら聞かせないでよ」
それもそうだねと健人は笑う。
「ところで。唯子お嬢様のご機嫌が斜めを通り越してまっすぐになりそうなんだけど、なんかあったわけ?」
「まっすぐならいいじゃない。普段通りってことさ」
「元が横なら今は縦になりそうなのよ。えらい機嫌が悪いようだけど、なんかあったの?」
「いや? 特にはなにも」
「そう……」
「なにかあったの?」と、今度は健人が言う。
「いや、こっちも、特にはなにも。ただ、数日前のように、失せろと怒鳴られた」
「おやおや、それはよくない」
「まあ、別に驚かないんだけどさ。ただ、なんかあったのかなって。昨日、一緒に買い物も行ってくれたし、ちょっと仲良くなれたのかな、なんて思わせてくれたからさ」
「うん……。かなり微笑ましい光景だったんだけどね……」
「あんたがなにかいじめたんじゃなくて?」
「いや、そんなことは……」
健人はしんみりと言って、俯いた。なにを言う、おれは唯子を愛してるんだ!とでも言ってくれることを期待していたので、わたしは少し焦る。
わたしはこっそり深呼吸して、「とにかく」と手を叩いた。「外出てよ。どうせ今日も、派手な服用意してるんでしょう?」
「ああ」と頷くと、彼は「きっと似合うよ」と明るく言って、部屋を出て行った。
今日の服を見つけた直後、叫びだしそうになったけれど、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせた。ピンクと茶色の服で、目につく場所全部にフリルを付けました、みたいな形。もちろん、この服自体はとてもかわいい。それこそ、猫耳のカチューシャでも着けたら最高じゃないかとも思う。けれど……。
「違うんだよ、わたしじゃないんだよ」
こういうのを着るのはさ。もっとかわいらしい子が着るべきなんだよ、そういう子が着こなせるんだよ、わたしじゃないんだよ、わかるじゃん。
大丈夫大丈夫、と、改めて自分に言い聞かせる。これは制服。あくまで、料理をするときにわたしの服が汚れないように、着替えるもの。