翌日、玄関を開けてくれたのは唯人君だった。紺色のボーダーの白いTシャツに、灰色のパンツという姿。首には、昨日と同じ黒のヘッドホン。

 「失せろ!」と、低い声が中から叫ぶ。「ちょっと唯子」と、唯人君が慌てた顔で振り返る。

 「お嬢様、今日はご機嫌斜めで?」

 わたしが言うと、唯人君は困った様子でこちらを向き直った。

 「いや、全然普通だったんだけど……」

 「まあ別に驚かないよ」とわたしは苦笑して、中に入った。――ああ涼しい、生き返る。

 「別に来なくてよかったのに」と言うその低い声に、唯人君は「唯子」と、叱るような声を返す。わたしは、「大丈夫だよ」と返した。嘘なんかじゃない。本当に大丈夫。もう、慣れたからさ。唯子お嬢様は気まぐれ。うん、大丈夫。わかってる。