唯子がベーコン巻きを焼いている音を聞きながら、わたしは小さなガラス容器の中身を混ぜた。梅干しと、砂糖、醤油、顆粒だし。それらを、味を見つつ適量を探る。

 美味しそうな音が止むと、唯子は食器を取り出してきて、フライパンの中身を菜箸で丁寧に盛った。

 「……あんたのには、隠し味を加えた」

 感情の読めない声がぽつりと並んで、「え、わたし生きて帰れる?」と返すと、「嘘」と、棒読みのせりふのような声が返ってきた。

 助けを求めて、というわけではないけれど、リビングの兄弟へ目をやると、二人とも穏やかな顔をしていた。なんとなく、わたしも同じような顔をしているんだろうなと思った。

 席に着くと、唯子は真っ先に、オクラの乗った冷ややっこを、わたしの作った梅ドレッシングをかけて食べた。なにを言うでもないけれど、大きな目をさらに少し大きくして、口元の表情をやわらげた。

 「美味しいでしょう」とからかうような口調で言ってみると、「馬鹿じゃないの」と冷たい声が返ってきた。けれど、すぐに新たな一口を運んでいるので、嫌いな味ではなかったみたい。

 「よかったね」と、健人が愛の滲んだ穏やかな声で言う。それに、唯子が慌てたように口を開く。

 「美味しくなんか……っ、健兄のごはんの方がずっとずっと好きなんだから!」

 「認めちゃえばいいのに」とは、わたし。

 「わたしの料理に惚れ込んじゃったって。健人のごはんじゃ全然満足できなくなっちゃったって」

 「は? 馬鹿じゃないの、調子に乗らないで」

 「ええ……。でも美味しいでしょう?」

 「別に。中の下」

 「厳しいねえ。甘めの採点では?」

 「下の中」

 「えっ? 中の下が甘めの採点だってこと⁉」

 こりゃもっと頑張らないとねと苦笑すると、相川さんじゃおれには敵わないよと健人の挑発的な声が言って、わたしは彼の顔も見ずに、左足の踵で彼の脛を蹴った。すっごい痛いところ入った、と言う通り、視界の端で、健人の体が震えている。たんすに小指ぶつけたときより辛い、と頼りなく震えた声が続く。