「夕飯なににする?」

 わたしは自動ドアをくぐると、カートに買い物かごを載せながら言った。

 「しっかし暑い。逆にカレーとか? 暑い日にあえて辛いものっていう」

 「ええ、嫌だ。わたしカレー苦手」

 「えっ⁉ カレー嫌いな人なんているの⁉」

 「うるさい。嫌いなんじゃなくて、苦手なの」

 「へええ、そうなんだあ」

 そんな人いるんだ、と続けると、ぎろり睨まれた。――怖いなあ、別に否定的な意味はないって。

 「今日、なに食べたい?」

 「なんでもいい」

 「それが一番困るんだってば」

 「本当になんでもいいし」

 ふうん、と頷くと、自分の顔に笑いが滲んでしまっているのがわかった。

 「よし、じゃあカレーにしようか」

 「梅干し使った料理」

 すぱっと返ってきて、「初めからそう言えばいいのに」と笑い返すと、なにか言いたげに、唯子はわたしを見た。

 青野倫子の話が終わってしまえば態度は元通りだ、と思ったけれど、そんなこともないみたい。今までよりも、普通に話してくれているように感じる。無理しなくていいんだよ、と思うけれど、わたしはなにも言わない。本人がこうすることを選んだんだから。せっかく、健人の想いが届いたんだから。