何気ない質問を投げかけると、唯子はその一つの質問に百を答えるようによく話した。それはもう、洋菓子店を営んでいるというお父さんのことも少しわかるくらい。

 お母さん――青野倫子は、十六歳のときに映画のヒロイン役のオーディションに合格して、青野りんという名前でデビューし、数々の話題作に出演したそうで、おりんという愛称はその当時にできたものらしい。青野倫子の出演した話題作として、唯子が名前を挙げていった中には、わたしも観たことのある作品も含まれていた。

 十六歳と言えば、わたしは学校に内緒でアルバイトに励んでいた頃だけれど、唯子たちのお父さんは、スペインに留学していたらしい。というのも、その頃にはすでに洋菓子店を経営したいという夢があったのだそうで、ヨーロッパを転々としていたらしい。

 青野りんが、芸名を本名の青野倫子に変えたのは、二十五歳の頃だそう。その頃、芸能界での仕事が自分のものになったような感覚があったらしい。

 青野倫子がそのパティシエに出会ったのは、本名での活動を始めてから間もない頃で、ある休日、ふらりと立ち寄った洋菓子店で出会ったそう。

その日は好物のマカロンと、レジ横に置いてあったオランジェットを買ったそうで、そのマカロンに惚れ込み、頻繁に通うようになったのだとか。

そのうちに、そのパティシエと話をするようにもなり、やがて交際を始め、三年後に結婚。その当時、「青野倫子、一般男性と結婚」と何度か報じられただけで、それほど大事にはならなかったと、後に、青野――桜庭倫子は、娘に話したそう。

 忙しくしている、と健人が話していたみんなの母親が、あの青野倫子、おりんだとはまったく思わなかったけれど、言われてみれば、健人の容姿はあの人にそっくりだった。あの細くて優しい目、すっとした鼻。こんなところが、と言えるような主張はないのに、どこかに色っぽさが見え隠れする唇。

 話の途中で、「わたしと唯人はパパ似だよ。お母さんは綺麗だけど、パパはかわいい顔してるの」と唯子は言った。わたしは、ああそうですか、お父様までかっこいいのね、というのを、「へええ、イケメンさんなんだろうなあ」と言い換えた。

 美男美女の両親とは羨ましいぜ、くそう。