調理場から、とくとく……と、器に液体を注ぐ音が届いた頃、向かい合うダイニングチェアに座っている唯子が、わたしを見た。

 「あのさ」と声をかけられて、どきりと胸が跳ねた。

 「今日、買い物付き合ってくれない」

 抑揚のない口調で言われたので、意味を理解するのに少し時間がかかった。ああ、わたしは誘われたんだ。買い物に付き合ってはくれないか、と。

 「うん、いいよ」

 「夕飯の買い出し」

 「ああ、そういう」

 それなら毎日一緒に行ってるけど……とは、言わないでおく。

 「嫌?」

 「ううん、そんなことない」

 健人の言っていた唯子が本当の唯子なら、この一言を放つのにかなりの勇気を必要としたに違いない。そうでなくても、わたしに断る理由はない。なにより、下手に断れば健人の糸のような目が細く開くに違いない。相川さんにおれの言葉は伝わらなかったみたいだ、とでも言うんだろう。いや、やっぱりもっと怖いかも。