「しかし今日も暑いねえ。ボンネットにたまご割ったら、焼けるんじゃない?」

 唯人君の言葉がないように、唯子は「健兄」と健人を呼んだ。

 「わたし、健兄のごはんが食べたい。健兄の作ったごはんが……食べたい」

 訴えかけるように言う彼女の目が、潤んでいるようにも見える。こういう顔を見る度に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。そうだよね、わたしの思い付きごはんなんかじゃなくて、お兄ちゃんの、温かみのあるごはんが食べたいよね、と。

 「ねえ、健兄。もう一回ごはん作ってよ」唯子は、ゆらゆらと涙を溜めた目でわたしを見た。「その人とも仲良くする」と言って、健人へ視線を戻す。

 「ちゃんと……ちゃんと、優しくなるから……」ずっ、と鼻をすする音がしたあと、大粒の涙が、大きな目から溢れた。「普通にするから……みんなみたいに、みんなみたいに、上手に……全部……」

 震えた、消え入りそうな、裏返った声。唯子は歪んだ震える唇を噛んで白い両腕で忙しく涙を拭った。唯人君がその肩を抱く。

 「健人」と言うわたしの声と、「健兄」と言う唯人君の声が重なった。

 「もういいんじゃない?」と、わたしは健人の、高い位置にある耳へ小さな声を投げた。

 「伝えなよ、あんたのしたかったこと。そんで謝りなよ」

 「間違ってるのかな」健人は、ぽつんと独り言のように言った。

 「いや、間違ってるんだよね」と苦く笑う。

 間違っている……のかもしれない。けれど、健人のこれは、すべて、確かに唯子のことを思っての行動。唯子を一人にしないために、他人と接する機会を作った。それが本当に間違っているのかは、わたしにはわからない。

 だから。

 「ごはん、作ってあげてよ」

 わたしには、こんなことしか言えない。