リビングに入ると、目が合った唯子が、ソファから舌打ちした。――だめだ、この人やっぱり怖い。前言撤回。いっそ、唯子はわたしの引き立て役、という言葉が健人から聞けていたならよかった。そうしたら、もっと余裕と自信を持ってここに立っていられる。

 助けて健人、あんたの妹ほんと怖い、と、わたしが助けを求めるより先に、「唯子」と、叱るような唯人君の声が飛んだ。

 「だめだよ」

 「本当、昨日の試合、勝ててればよかった」

 吐き捨てるように言って、唯人君の隣に座り直す唯子。

 「今日のお昼はなににしようか」と、健人が言う。その声が、不自然に明るいようにも感じた。その胸の内を、少しだけ知ったからなのかな。

 「唯子。なに食べたい?」

 「……健兄のごはん。それ以外、なにもいらない」

 「ええ……僕は相川さんのごはん好きだけどなあ」

 何気なく言った唯人君に、唯子がばっと振り向く。

 「健兄のごはんより⁉」

 「同じくらい」と、唯人君はなんでもないように言う。

 「わたしは健兄のごはんが一番好き。あんなやつのごはんなんて……」

 「へえ?」と、唯人君がいたずらな笑みを浮かべる。「その割には唯子、食べてるときご機嫌じゃない?」

 言われて、唯子はぷいっと窓の外へ視線を投げた。「お腹が満たされていくからじゃないの」とぶっきらぼうに答える。

 「そうかなあ? 相川さんのごはんが美味しいんじゃないの?」

 「そんなわけないでしょう⁉ わたしはあの人が大嫌いなの!」

 ――えっと、唯子さん。わたし、とりあえずここにいるんですよね。改めて驚くような内容でもないけど、できることなら、わたしのいないところで吐き出してほしいな、そういうの。わかってるんだけどね、二人の前でこう言ってること。なんとなく、わかってるんだけどね。でもやっぱり、そう見せつけられちゃうと……ちょっとさ、寂しいものがあるじゃん。