扉を開けると、健人は「わあ……!」と目を輝かせた。

 「相川さんは本当になんでも似合うなあ。素敵だよ」

 「なに、これはあんたの趣味なわけ?」

 「悪い?」

 「別に否定はしないけど、わたしじゃないよね、着るべきなのは」

 「ああいや、悪趣味かな」

 「え? ああ、いや、別にそれも思わないけど。でも、わたしじゃなくない? 着るのは」

 「おれが着る?」

 「どうしたらそうなる? もっとかわいい子の方がいいんじゃないの? そんでもって、もっとのりのりで着てくれるようなさ」

 まさか強要するのが趣味なのか、こいつは。

 「おれはそうは思わない」と、海外映画の登場人物のように、健人は肩をすくめながら首を横に振った。

 「おれにとっては、相川さんが一番かわいいんだ」

 「はあ? なに急に。気持ち悪いよ」

 「おれは、こんな服を着こなせるのは相川さんだけだと思ってる」

 「じゃあなんで唯子ちゃんにまで着せるのよ。引き立て役とか言ったら――」

 あまりに物騒で汚い言葉が続きそうになったのを、わたしは必死に飲み込んだ。それを、「殴るわよ」と言い換えた。唯子が怖いのは本当だし、否定的な言葉を投げつけられたりもしたけれど、それとこれとは別。実の妹を自分の趣味の引き立て役なんて言ったら、それは許せることじゃない。唯子と同じ女として――というのと、それ以上に、健人と同じ人間として。

 「違うよ。唯子は唯子、相川さんは相川さんで、それぞれの魅力があるじゃない。せっかく最高にかわいい女の子が二人もいるんだから、その魅力を存分に感じないと」

 「……あんた、すぐ浮気するタイプでしょ」

 「なにを言う」と健人は目を見開く。「とんでもない、どちらかと言わなくても一途な方だよ」

 「ふうん?」と、大げさに怪しむ表情をして見せると、彼は「本当だよ」と笑った。どことなく、唯人君に似た笑顔だった。