かと思えば、「実はね」とまじめな顔をする、まあ、これも綺麗であることには変わりないんだけど。
「ちょっと、お願いしたいことがあるんだ」
「なに。それが家に来ること、とか言ったらぶちのめすわよ?」
「なんて物騒な!」と、彼はぶんぶん両手を振る。「嫌だよ、暴力反対!」
「ちゃんとまともな理由があれば、ぶちのめすとまではいかないわよ。引き受けるかどうかは別としてね」
「……でも……」と、桜庭君はまたおとなしい顔をする。言い出すのをためらっているような、言葉を探しているような。
「本当に、相川さんはいてくれるだけでいいんだ。難しいことなんてお願いしない」
「それでなんで五千円もくれるのよ」
「だって相川さん」と言って真っすぐにこちらを向いたその目は、細い目、だった。また背中がひんやりする。
「いけないことしてるじゃない。自分の体と引き換えに、お金をもらってる」
「変な言い方しないでよ!」
ここは教室とか、周りにたくさんの人がいるとか、そんなことを気にするよりも先に叫んでいた。教室中の視線が一斉にこちらを向いたけれど、すぐに日常が戻った。
桜庭君はにやりと笑う。
「否定、しないの? じゃあやっぱり、そういういけないこと、してるんだ?」
「だから、そういう言い方しないでよ」
「どうしてそんなことをしてるのかなんて、訊かないよ。おれには関係ないしね」
「だったら、そういう変なオブラートもどきに包まなくていいから」
「じゃあなに? 先生に怒られるようなことしてるよね、とでも?」
そう言えばいいのか、とでも言うように、彼の細い目はわたしを見上げた。
「もういいよ、その話は」
「で、放課後、お金をもらってる相川さんから、その放課後の時間をもらう以上、その時間で得ているお金も払うべきだと思ったわけさ。お金を払うのに深い意味なんかない。それともどう? 日給五千円じゃ話にならないような、すっごいお仕事、してるわけ?」
「だから、あんたはなんでそう、深みのある言い方をするの? 別に、普通よ。法には一切触れてない」
「法、には?」
「うるさいね。変なところに引っかかるんじゃないよ。はいはい、一日五千円なんて言われちゃあ、今すぐにでも飛びつきたいくらい、安いお金で働いてますよ」
「認めちゃったあ。あーあ、いいの? おれ、確信しちゃったよ?」
「うっそ、うわあ。あーあ、言わなきゃよかった。後悔、後悔」
わたしは思ってもいないことを言う。桜庭君だって、確信しちゃったもなにも、初めから確信して話しかけてきたんだろうに。
桜庭君はまた、にやりと笑う。
「ほら。秘密にしててあげるからさ。困るでしょう? あんなこと、先生に知られたら。先生、怒ると思うなあ。許可も得ずに、勝手にあんなことしちゃうんだもん」
わたしは上目遣いに桜庭君を睨む。これほどかわいくない上目遣いなんて、ほかにないんじゃないかというくらい、睨む。
ああ、なんて回りくどいんだ。
家に呼びたいなら、その目的を全部話してくれればいいのに。それを聞いて、わたしが引き受ければ家に行く。断ればそれまで。どうしてそれじゃあいけないんだろう。
「ちょっと、お願いしたいことがあるんだ」
「なに。それが家に来ること、とか言ったらぶちのめすわよ?」
「なんて物騒な!」と、彼はぶんぶん両手を振る。「嫌だよ、暴力反対!」
「ちゃんとまともな理由があれば、ぶちのめすとまではいかないわよ。引き受けるかどうかは別としてね」
「……でも……」と、桜庭君はまたおとなしい顔をする。言い出すのをためらっているような、言葉を探しているような。
「本当に、相川さんはいてくれるだけでいいんだ。難しいことなんてお願いしない」
「それでなんで五千円もくれるのよ」
「だって相川さん」と言って真っすぐにこちらを向いたその目は、細い目、だった。また背中がひんやりする。
「いけないことしてるじゃない。自分の体と引き換えに、お金をもらってる」
「変な言い方しないでよ!」
ここは教室とか、周りにたくさんの人がいるとか、そんなことを気にするよりも先に叫んでいた。教室中の視線が一斉にこちらを向いたけれど、すぐに日常が戻った。
桜庭君はにやりと笑う。
「否定、しないの? じゃあやっぱり、そういういけないこと、してるんだ?」
「だから、そういう言い方しないでよ」
「どうしてそんなことをしてるのかなんて、訊かないよ。おれには関係ないしね」
「だったら、そういう変なオブラートもどきに包まなくていいから」
「じゃあなに? 先生に怒られるようなことしてるよね、とでも?」
そう言えばいいのか、とでも言うように、彼の細い目はわたしを見上げた。
「もういいよ、その話は」
「で、放課後、お金をもらってる相川さんから、その放課後の時間をもらう以上、その時間で得ているお金も払うべきだと思ったわけさ。お金を払うのに深い意味なんかない。それともどう? 日給五千円じゃ話にならないような、すっごいお仕事、してるわけ?」
「だから、あんたはなんでそう、深みのある言い方をするの? 別に、普通よ。法には一切触れてない」
「法、には?」
「うるさいね。変なところに引っかかるんじゃないよ。はいはい、一日五千円なんて言われちゃあ、今すぐにでも飛びつきたいくらい、安いお金で働いてますよ」
「認めちゃったあ。あーあ、いいの? おれ、確信しちゃったよ?」
「うっそ、うわあ。あーあ、言わなきゃよかった。後悔、後悔」
わたしは思ってもいないことを言う。桜庭君だって、確信しちゃったもなにも、初めから確信して話しかけてきたんだろうに。
桜庭君はまた、にやりと笑う。
「ほら。秘密にしててあげるからさ。困るでしょう? あんなこと、先生に知られたら。先生、怒ると思うなあ。許可も得ずに、勝手にあんなことしちゃうんだもん」
わたしは上目遣いに桜庭君を睨む。これほどかわいくない上目遣いなんて、ほかにないんじゃないかというくらい、睨む。
ああ、なんて回りくどいんだ。
家に呼びたいなら、その目的を全部話してくれればいいのに。それを聞いて、わたしが引き受ければ家に行く。断ればそれまで。どうしてそれじゃあいけないんだろう。



