「ばっかじゃないの⁉」と叫んでから、健人とはあまり話していない。

 「ささみは……?」と訊いてくるのも唯人君だし、そうすると、当然、「分厚いところを、こう……こんな感じで、開いて」と身振り手振り使って伝える相手も、唯人君になる。

 「で、半分にして、梅干しを突っ込む」

 「梅干しを、突っ込む。……突っ込む? え、丸々一個?」

 「うん。ああ、種は取ってね。どうせ楊枝で止めるんだから、多少の無理は聞いてくれるよ」

 そんなやりとりを唯人君としている間、健人をちらりと見てみると、天ぷら鍋を取り出し、軽くすすいで、キッチンペーパーで水を拭き取っていた。

 なんか、気まずい――。唯人君がやたら話しかけてくれるのも、そんなわたしの気持ちに気付いているからであるように感じられて、より気まずい。しかも、この広い調理場では、作業台がダイニングを向いているのに対して、流しは壁を向いている。L字の横が作業台なら、縦のところにあるものだから、上手く気まずさを際立たせる。

 「そんで、大葉は軸を切って……」

 「軸を……」

 繰り返しながら、唯人君は、慣れとたどたどしさの混ざった手つきで、包丁を動かす。聞けば、唯人君は時折、健人の料理を手伝っていたらしい。包丁を握ることは少なかったけれど、まるで料理ができないというわけではないようで、わたしの下手な説明でも、しっかり応えてくれる。

 「その大葉を、梅干しの上に載せて、ささみで巻く」

 言ってから、思いつくと同時に「あっ」と声が出た。

 唯人君が、「えっ?」と驚いたように手を止める。

 「大丈夫、そのままでいいよ」と伝えて、「大葉で巻くのも面白いかもね」と言った。

 「えっと……外から、大葉、ささみ、梅ってこと?」

 「そう。大葉の天ぷら感も出そう。半分ずつにしようか」

 「いいね。美味しかった方を相川さんから全部もらうってことで」

 「ええ、それは困るなあ」と笑うと、唯人君も楽しそうに笑った。健人とは違う、しっかりと瞳の見える目。それが、笑うと、下がった目尻にくしゃっとしわを寄せて、困っているような顔を作る。かわいい。