ところで、ここからどうやってわたしが出てくるのだろう。

 ふと、健人は糸のような目でわたしを見た。

 「相川さんには、本当に申し訳ないと思ってる」

 「いや……」別にそんな、とわたしは手を振った。

 まあ、バイトも辞めさせられたし、先生に伝えると脅されたときには本気でびびったけれども。

 「本当はね、唯子に、人に慣れてほしかったんだ」

 「……そうなんだ」

 でも、無理にそんなことする必要はないんじゃないかな。

 「おれは、来年からはもう本格的に忙しくなる。中三になる唯人だってそうだろう。……このまま、そんな時期を迎えたくなかった」

 わかったようなわからないような、という気持ちでいると、健人はそれを感じたのか、小さく笑って続けた。

 「来年には、おれたちは卒業後に向けてラストスパートをかける。そうしたら、唯子は本当に一人になってしまう。もちろん、できる限りそばにいようとは思う。でも、これからずっとそうしていられるかと考えたら、きっと無理だ。いつかは、本当に唯子を一人にしてしまう。だけど、誰か一人でも、唯子のそばにいてくれる人がいれば……」

 わたしはふっと笑ってみた。なるほどね、そういうことですか。

 「本当、どうしようもないシスコンお兄ちゃんだね」

 愛が重いくらいだよ。

 「筋金入りのシスコンで賞、にでも表彰されるかな?」と、健人も乗ってきた。

 「……ところでさ、なんでわたしはここに呼ばれたの?」

 「唯子に人に慣れてほしくて……」

 「だったら別に、わたしじゃなくてもよくない? 実際のところ、料理とか関係ないわけでしょう?」

 健人はふわりと笑って、なんでもないことのように言った。

 「おれが、好きなんだよ。相川さんのこと」