地面に刻まれた線の数は、三本と二本だった。わたしたちのコートのそばに三本、唯人君たちのコートのそばに、二本。

 「かっ、勝った……⁉」

 「うん、勝ったんだよ」

 湧き上がる喜びが爆発するように声を上げて笑うと、健人は「勝ったんだよ!」ともう一度言った。二人で両手のひらを向けて、思い切りそれをぶつけた。じんじん痛む手を払うと、彼も同じようにしていた。

 「よかった……これで、これからも相川さんに来てもらえる」

 健人が独り言のように言ったそれを、拾ってしまうか、それともそっとしておくべきか、わたしは少し迷った。

 「……ねえ、健人」

 仕方ない、わたしに我慢というのは向いていない。

 健人はわたしを見た。笑っているような形の糸のような目元に、黒目も白目も確認できないけれど。

 「健人は、どうしてそんなにわたしにこだわるの?」

 彼はふっと力を抜いたように、口角を上げた。

 「どうしてだろうね」

 「なにそれ?」

 「秘密ってことにしておくよ。面白いでしょう?」

 「いや、全然」

 「それは残念だな」

 「……なにか、理由があるんでしょう?」言いながら辺りへ視線を走らせると、すでに唯子はいなくなっていた。唯人君もいない。わたしは続けた。

「唯子ちゃんはあんなにわたしを嫌ってる。なのにどうしてわたしをここに置こうとするの? あんたは唯子ちゃんのこと好きなんでしょう? すごく大切にしてるもん」

 「好きだからだよ。唯子が。大切だから」

 「じゃあどうして……。唯子ちゃんがわたしを嫌ってるのは知ってるよね?」

 健人はゆっくりと首を横に振った。

 「はあ⁉」

 「違う。唯子は、相川さんが嫌いなんじゃない。怖いんだ」

 「いや、それでもだめでしょう。なんで怖がってる相手をわざわざ近くに?」

 ていうか、なんで怖がられてるのかもわからないんだけど。だけど、ここでは一旦、それは置いておこう。今知りたいのは、健人がわたしにこだわる理由。

唯子はあんな調子だし、唯人君だって、どちらかといえば唯子に近い方にいるように見える。それはわたしを嫌っているということではなくて、唯子が嫌がることを無理にする必要はないと考えているような。そんなふうに、さっきの五分間の試合で感じた。あの試合に勝つことで、わたしと唯子を近くに置いておこうとする健人を止めたかった、というように。

仮にそれが本当だとすると、唯人君が決めたチーム分けをすぐに受け入れた辺り、健人もそれに気づいているんじゃないかな。例えば、健人と唯子が同じチームになった場合、勝ってわたしを追い出したい唯子と、負けて、これからもわたしに来てほしい健人とで、試合が成り立たない。そのチームを勝たせたい人と負かしたい人は、同じチームにはいられない。