5時間だけのメイド服

 休み時間の終わりを告げるチャイムが、これほどありがたいものに感じたことはない。席に戻ってからは、桜庭君の姿しか目に入らなくなっちゃったけれど。

 どうせ次の休み時間も来るのだろうと覚悟していたけれど、そうではなかった。

 なんだ、来ないじゃないと安心したその隙を突いたように、桜庭君は昼休みにやって来た。

 「やあ、相川さん」

 「……行かないわよ、あんたの家なんて」

 「どうして?」

 「来てほしい理由をまともに答えられない人に、こっちが行きたくない理由を話す必要がある?」

 「おれは、相川さんに来てほしいんだよ。それ以上でも以下でもない」

 「だから、来てほしいって思うのには、なにかしらの理由があるでしょう? わたしはその理由が知りたいの」

 「おっと」と、桜庭君は心底驚いたような顔をした。

 「そんな深いところを知りたかったのかい? なんて用心深い人だ」

 「はあ? 見ず知らずの他人の家に呼ばれてるんだから、当然でしょう?」

 「見ず知らずとは寂しいことを言うなあ。おれたちは同級生だ。同じ教室で、同じ先生から同じ授業を受けている。これが見ず知らずの他人かい?」

 「はいはい」

 わたしはため息のように言った。

 「わかったわかった、見ず知らずってのは、ちょっと大げさでした。ごめんなさい」

 できるだけ感情を込めないで言うと、桜庭君はそこは少しも気にしていないように、「よかったよ、このまま真っ赤な他人のままかと」と安心したような顔を見せる。ちくしょう、綺麗な顔しやがって。