続く悲痛な息遣いにわたしの胸までもが張り裂けそうになったとき、健人が動いた。
「唯子。落ち着いて、大丈夫だから」と。
続きを知っているかのように、唯人君も動き出す。台所へ入って、グラスに水を灌ぐ。
「少し水飲もう」と言う健人の声を合図に、唯人君がグラスを差し出す。唯子があまりに震えた手で受け取るものだから、中で水がぶるぶる震える。
ひくひくと下手くそに息を吸う唯子の背中を、健人がさする。彼女は少しずつ呼吸を落ち着けて、こくりと水を飲みこんだ。
「大丈夫?」と尋ねると、ぎろりと睨まれた。――ええ、嫌だ怖い。
「あんたのせいよ」と低い声が言う。――嫌だこの子、ほんと怖い。わたし悪くなくない?
「あんたがいなければっ、あんたさえいなければ!」
「唯子違うよ」と、健人が諭すように言う。「相川さんは悪くない」――ああ、健人ってば優しいじゃないの。そうよね、わたし悪くないわよね。うんうん、と心の中で何度も大きく頷く。
「なんで……」と怯えたような目をする。まるで、目の前に残酷な光景でも広がっているかのように、その目は震えている。
「こいつがいたからっ、健兄は……」
「違う。言ったでしょう? おれが相川さんに頼んだんだ」
「なんでっ。必要ないじゃん! わたしは健兄のごはんが食べられればそれでいいのっ、なのになんで……?」
ああ、確かにそうだ。唯子は健人の作るごはんが大好きで、毎日同じだっていいというくらい。わざわざ違う料理を作る必要はない。わたしはやっぱり、必要ないんだ。
「健兄……元気じゃないの? 疲れた?」
「ううん、そんなことない」
「じゃあなんでっ……。わたしはこの人が嫌い。大っ嫌い! 明日から――いや、今帰って、それきり来ないってなったら、すごく嬉しい」
「……そっか」
「よし」と、唯人君が手を叩いた。見てみると、さっきまでの悲しそうな様子は少しもない。スイッチの切り替えが……まあそうだな、上手なんだろう。
「相川さんはどう? もう、一緒にごはんを作ったり、食べたりするのは嫌?」
正直、嫌かもしれない。実際、家を出る前、できることなら行きたくないと思った。けれど、こう尋ねられて、嫌だと即答できないのもまた事実。
わたしは、薄く開いた唇で、短く息を吸い込んだ。
「必要としてくれるなら……うん、ここにいたい。でも、必要ないなら」
それも甘んじて受け入れるよと、わたしは本音で答えた。
「そっか」と唯人君は頷く。「それなら、バスケをしよう」
「……バスケ?」と唯子。
「そう。唯子も好きでしょう?」
「うん……」
ちょっと待ってくれ、と、わたしは心の中で叫ぶ。バスケットボールなんて、正直、ルールさえ知らない。ゴールにボールを入れると点が入る、というのは知っているけれど、細かいルールはまるで知らない。
「唯子。落ち着いて、大丈夫だから」と。
続きを知っているかのように、唯人君も動き出す。台所へ入って、グラスに水を灌ぐ。
「少し水飲もう」と言う健人の声を合図に、唯人君がグラスを差し出す。唯子があまりに震えた手で受け取るものだから、中で水がぶるぶる震える。
ひくひくと下手くそに息を吸う唯子の背中を、健人がさする。彼女は少しずつ呼吸を落ち着けて、こくりと水を飲みこんだ。
「大丈夫?」と尋ねると、ぎろりと睨まれた。――ええ、嫌だ怖い。
「あんたのせいよ」と低い声が言う。――嫌だこの子、ほんと怖い。わたし悪くなくない?
「あんたがいなければっ、あんたさえいなければ!」
「唯子違うよ」と、健人が諭すように言う。「相川さんは悪くない」――ああ、健人ってば優しいじゃないの。そうよね、わたし悪くないわよね。うんうん、と心の中で何度も大きく頷く。
「なんで……」と怯えたような目をする。まるで、目の前に残酷な光景でも広がっているかのように、その目は震えている。
「こいつがいたからっ、健兄は……」
「違う。言ったでしょう? おれが相川さんに頼んだんだ」
「なんでっ。必要ないじゃん! わたしは健兄のごはんが食べられればそれでいいのっ、なのになんで……?」
ああ、確かにそうだ。唯子は健人の作るごはんが大好きで、毎日同じだっていいというくらい。わざわざ違う料理を作る必要はない。わたしはやっぱり、必要ないんだ。
「健兄……元気じゃないの? 疲れた?」
「ううん、そんなことない」
「じゃあなんでっ……。わたしはこの人が嫌い。大っ嫌い! 明日から――いや、今帰って、それきり来ないってなったら、すごく嬉しい」
「……そっか」
「よし」と、唯人君が手を叩いた。見てみると、さっきまでの悲しそうな様子は少しもない。スイッチの切り替えが……まあそうだな、上手なんだろう。
「相川さんはどう? もう、一緒にごはんを作ったり、食べたりするのは嫌?」
正直、嫌かもしれない。実際、家を出る前、できることなら行きたくないと思った。けれど、こう尋ねられて、嫌だと即答できないのもまた事実。
わたしは、薄く開いた唇で、短く息を吸い込んだ。
「必要としてくれるなら……うん、ここにいたい。でも、必要ないなら」
それも甘んじて受け入れるよと、わたしは本音で答えた。
「そっか」と唯人君は頷く。「それなら、バスケをしよう」
「……バスケ?」と唯子。
「そう。唯子も好きでしょう?」
「うん……」
ちょっと待ってくれ、と、わたしは心の中で叫ぶ。バスケットボールなんて、正直、ルールさえ知らない。ゴールにボールを入れると点が入る、というのは知っているけれど、細かいルールはまるで知らない。



