朝、ペン吉のカノンで目を覚ました。音を止めて、ベッドの上で伸びをする。はあと息をついて、昨日の記憶が現実であることを思い知る。――ああ、最悪だ。やっぱりわたしは、もうあのファミレスに通うことはなくなり、桜庭家に通うんだ。だから今日も、夏休みだというのにこんな早い時間に起きている。十時三十分。まだ午前中。

今までのわたしだったら、起きるなんてありえない時間。夏休みというのは、入学や進級から一学期の間ずっと足りていなかった睡眠を取り戻すための期間のようなもので、午前中に起きるようなものではないんだから。だもの、そんな大切な期間に宿題を出すなんていうのは正気の沙汰じゃない。先生たちは、勉強の大切さを知りすぎたがためにおかしくなってしまったのだ。まあ、そんな宿題も、桜庭健人なるあの男は二日で終わらせることができるようだけれど。――ああ、妬ましい。

 仰向けになって、天井を眺めて、深く息を吸い込む。

 「はああ……行きたくないなあ」

 だって、唯子怖いんだもん。今日もあれだよ? 絶対、なんで来たんだとか、呼んでねえよとか、さっさと帰れとか、消え失せろとか、二度来るなとか、そういう汚い言葉を、鬼の形相で投げつけてくるんだよ。わかるもん。わたし、あの子にすごい嫌われてるもん。

 「でもなあ……」

 このまま、二度寝という至福の時間を過ごしてもいい。なにも言わずに、桜庭家になど二度と行かず、夏休みを過ごしてもいい。けれど、そんなことをしたら……。

 想像しただけで、夏だというのに背中が寒くなる。わたしはぶるりと体を震わせた。

 健人の冷たい、細い目、が頭の中に蘇る。

 「相川さん……忙しかったかな」とか、「どうして来てくれなかったの?」とか。いいや、きっともっと怖い言葉に決まっているけれど、そういうことを、あの冷たい目をして言うんだ。二学期が始まってすぐの、九月一日、教室で。