その料理は、簡単に作れた。適当な大きさに切った厚揚げに切り込みを入れて、そこへ梅干しと大葉を挟んで、油を引いたフライパンで焼き、めんつゆで味付けをするというものだった。めんつゆは、今回は薄めずに使えるものだったので、少し多めに、水は使わずに、といった具合だったけれど、濃いものでは適当に水で薄めるらしい。

 「へえ、美味しそうだね。健人が考えたの?」

 「うん。なにか、梅干しを使った料理はないかなって考えてたときに思いついて、やってみたら美味しかった。初めはめんつゆ使ってなくて……まあ、素朴な味だったんだけど、めんつゆ使うようになってからはそれなりに」

 「へええ。やっぱりあんた、すごいよ。わたしなんて要らないんじゃない?」

 「いやあ……そんなことないよ」

 健人は、どこか悲しそうに言う。

 「もっと自信持ちなさいよ。唯子ちゃん、あんたの料理大好きなんですってよ? 普段、料理を手伝うことはないんだってね。でもそれ、あんたが一人で作った、完全なあんたの料理が好きだから手伝わないんだってよ。本当に、あんたのことが大好きなんだよ」

 「……うん」と、微かな声が頷く。

 「でも、それだけじゃあ唯子のためにならない」

 「どうして。好きなものを食べた方が幸せじゃない。苦手なものを無理に食べるよりずっと」

 「……うん、そうだね」と、今度はやけに素直。

 「なによ、意味わかんないんだけど。まあいいや、とりあえず、副菜を作りましょう」

 「おっ、豪華だね」と、彼は弱々しく笑う。

 「しゃきっとなさい!」と、わたしはその背中を叩いた。「痛っ」と頼りない声が上がる。