着替えを済ませて調理場に戻ると、わたしはため息をついた。

 「ねえ、なんでメイド服なの?」

 「似合うでしょう?」

 「そうは思わないけど。どっちかというと、つなぎとかの方が似合うかと。わたしなんて」

 「そりゃあ似合うだろうね。相川さんはなんでも似合う」

 わたしは大げさに、自分の体を抱いて、ぶるりと震えて見せた。

 「……なに、怖いんですけど」

 「本心だよ。相川さんはなんでも似合う」

 「だから怖いんだっつーの。なにが目的だ」

 「目的なんてそんな。あえて言うなら、癒しだよ」

 「はあ?」

 「日常には癒しが必要だからね」

 「はあ? なに、わかんない」

 「日常に必要な癒しを、おれは相川さんからもらうんだ」

 「嫌だ嫌だ、なに、怖い怖い」

 「さて。お腹も空いてきたし、作り始めようか」と、彼は軽い調子で言う。

 ええ……なに、なんでも似合うとか癒しとか、本当に怖いんですけど。わたしはあんたの着せ替え人形じゃないですよ? 今度はなにを着せられるの? これ以上はないからね。メイド服着られればなんでも着られるでしょうとか思わないでよね。

 健人へ、ちょっと聞いてる?と、聞こえない声で言っているくせに繰り返す。