唯子が落ち着くのを待って、わたしは口を開いた。

 「梅と大葉の厚揚げ焼き、だっけ。どんなふうに作るの?」

 「……健兄が知ってる」

 「一緒に作ったりしないの?」

 「わたしが一緒にやれば、それはもう、健兄のごはんじゃない。わたしは健兄のごはんが好きなの」

 「だから、一緒に作ることはないんだ?」

 唯子は静かに頷いた。

 ――お兄さん、いつまで手を洗っているんですか? 妹さんの声、聞こえていますか? やはり、ここにわたしは必要ないようですよ。妹さんは、あなたの作ったごはんが好きなんです。あなたが誰かと一緒に作ったごはんではなく、あなた一人が作ったごはんが好きなんです。

赤の他人であるわたしは、本来、ここに立つことも許されてはいません。ここは妹さんにとって、他人は決して踏み入ってはならない聖域なのです。ここに立っていいのは、あなただけなんですよ。あなたは自分の作る料理を、同じようなものばかりだと言いましたが、妹さんはそんなことは気にしていません。妹さんには、あなたが作ったごはんが食べられる、そのことに意味があるんです。