広い、台所というよりも調理場という場所。

 「で」という唯子の低い声。

 「なんでお前はまだいるんだよ。帰れって」

 「だって、健兄が……」

 茶化すように言ってみると、唯子は鋭い敵意を宿して、カッと目を見開いた。

 「あんたのお兄ちゃんじゃない‼」

 響いた声は、離れた場所にある大きな窓さえも揺らすかのようだった。

 「……ごめん」

 「健兄はあたしのお兄ちゃんだ。唯人もそう。あんたは全然関係ない。赤の他人。健兄だなんて、二度と言わないで‼」

 ぎりぎりと音が聞こえるように噛み締められた歯の間から、荒い呼吸が漏れている。まるで、威嚇している動物みたい。

 「ごめんね。彼らは、あなたのお兄ちゃん。あなたのきょうだいで、家族。わかったよ、わかった。もう決して、あんな呼び方はしない」

 わたしにだけ見えているのかもしれないその涙を拭おうと手を伸ばすと、ぱしんと激しくはねられた。

 「触らないで。他人のくせに……関係ないくせに」

 「わかった。触らない」