ふと振り返ると、下の双子はひんやりした棚を見ていた。

 「梅干しかな?」と無意識に出た声に、「本当に好きみたいで」と健人が応えてくれる。

 わたしは唯子に近づいて、「梅干しを使った、好きな料理ってある?」と尋ねた。彼女は一瞬ではんにゃのような顔を作って、心底迷惑そうにイヤホンを外した。外を歩くときは着けないでいなさい、と心の中で説教する。

 「なに」と低い声が応える。――ええ、なにこの子、わたしそんなに悪いことしたかな。だめだ、やっぱりわたしこの子苦手。

 そうは言っても、わたしだって立派な高校生。大人を目前にした一人の女性として、できる限り自然な笑顔を作る。

 「梅干し。好きなんだってね。なにか好きな料理ある?」

 「別に」

 放り投げるように返ってきて、こめかみに、ピキ、と音が聞こえたような気がした。

 「わたし、これでも料理の腕はそこそこだと思ってるの」ファミレスで働いていたときにキッチンの方にいたから、とは、わざわざ言わない。

 「言ってくれれば、なんでも挑戦するよ?」

 「あんたの料理なんか興味ない」

 「まあまあ」と唯人君が困ったように笑う。

 「あんた、なんのために来たの?」

 「え……」言っていいものかと迷ったけれど、言うなとも言われていない。「健人に頼まれて……」

 「あっそ。別に必要ないから。もう来なくていいよ」

 「唯子」と、唯人君が少し低い声を発する。途端に、唯子は悲しそうな顔をした。「だって」と言う彼女の肩を、長い腕が優しく抱く。

 「夜、なに食べたい?」

 なかなか答えない唯子は、ぎゅっと唇を噛んでいる。ようやく口を開けば、「健兄のごはん」と、喉の奥が震えた。

 それを見て、聞いて、わたしは、桜庭家での自分の必要性に疑問を抱いた。本当に、わたしはこの家に必要なのだろうか。本当に、健人の言うマンネリズムは、脱さなければならないものなのだろうか。

唯子はこんなに悲しそうにしている。唯人君も、それをなだめるのに必死。これらはすべて、わたしがいなければ起こらないこと。健人がこの二人にごはんを作って、三人で食べて、それだけでいいんじゃないのかな。それこそが、この二人の幸せなんじゃないのかな。

 「そっか」と言ったのは唯人君だった。「うん、健兄のごはん、食べようか」