そのお茶は、とても綺麗な色をしていた。赤みの強いオレンジ、といった具合の色。鼻を近づけなくても、いい香りがしてくる。台所で、いいにおーい、と言っていた唯人君の声に、今更ながら共感する。

 「本当、いい匂い」

 「でしょう。今日は特に上手く淹れられたんだ。スイショクもいいでしょう」

 「スイ……ショク……」

 翠色? 緑色のこと? いや、でも辺りに緑色は見当たらない。

 「お茶の色だよ」と唯人君が答える。「水の色って書いて、すいしょく。たまに濁っちゃったりするんだけど、今回はかなり上手い」

 我ながらあっぱれ、と、唯人君は満足げに、楽しそうに笑う。

 「唯人、美味しい」と、静かでかわいらしい唯子の声が飛んできて、「僕は注いだだけだよ」と唯人君は笑い返す。

 「いただきます」と、わたしはカップの中身を口に含んだ。そして、驚いた。「美味しい……」

 「よかったあ」と、唯人君は嬉しそうに笑う。

 「お茶とか、詳しいの?」

 「母さんが、お茶が好きで、いろいろ飲まされてるんだ」

 「飲まされてるんだ?」

 「そう。そうしたら、いつの間にか好きになってた。詳しいかどうかは、ちょっと自信ないけど」

 「詳しいよ。わたし、正直、アッサムとかストレートとかわからなくて、ちょっと怖かったの。どんなのが出てくるんだろうって」

 「そうしたら、思いの外美味しかった、と」

 「うん。本当に美味しい。アッサムって誰⁉って思ってたけど、美味しいお茶のことなんだね」

 「だいたい、お茶っ葉の名前を指すと思う。実際は、そのお茶っ葉がよく採れる場所の名前みたいなんだけど」

 「へええ。てか唯人君、詳しいよ、十分」

 「そうかなあ」

 「お茶屋さんみたい」

 「褒めてもなにも出ないよ」と笑うけれど、まんざらでもない様子。本当にお茶が好きなんだろうな。